I-6
それにしても、と忠志が言いだしたのは、福島から帰る車の中でだった。後部座席に座った忠等と克等の視線を受けて、思わず苦笑してしまう。
「ホモとかレズって遺伝だっていう説があるらしいけど、本当かもしれないな」
「えー? そんな説があるのぉ? 信じられなーい」
「……わざとらしいぞ、克等。まさかお前もとか言わないよな?」
「言ったら?」
「おいおい、本当か? 母さん、どうする。俺たち、ちゃんと育てたよな?」
情けない声を出した父親に、忠等と克等は揃って笑いだした。克美は呆れて物が言えなくなっている。
「というか、本当なんだけどさ。初恋はちゃんと女の子にしたぞ。今は男だけど、人生長いからな。次は女かもしれないし。俺は別に男が好きって訳じゃないぞ」
言い訳じみて、克等がそういった。本気で好きなのだが、どうも心から繋がっているカップルを目の前に見ていると、そこまでハードな感情じゃないなと、自分で観察してしまうのだ。
ずっと松実を好きでいたいが、そこまで感情が保つのか、自信が無くなる。そんな弟を見て、忠等はただ笑っていた。
「忠等はどうなんだ? お前も、次は女かもしれない、か?」
「次があるならね。一生ものだと思うけどな。四年離れていても気持ちは変わってなかったから」
平然と返して、忠等は腕を組む。そのまま目を閉じてしまった。忠等の場合、宏紀を好きでいることが当たり前となっているのだ。恥ずかしそうでもないし、饒舌にさえならない。ただ事実を答えるだけだ。
四年と聞いて、克美が今度は口を開いた。
「四年離れて、って、あなた、その子と付き合い始めたのはいつなの? まだ高校生で四年って言ったら、長いわよ」
「え? 付き合い始めた年? ……中一の時。引っ越しって、中二の夏だったよな?」
忠等は答えてもまだ自信なさそうに首を傾げている。
「で? 相手の子は同い年なの?」
「克等とね」
何ですって? 驚いて克美は後を振り返った。単純計算をして、付き合い始めた当時の相手は小学校五年生。不肖の息子は、どうやらそんな子供に手を出していたらしい。平然としている忠等を見て、克美は頭を抱えた。
「今度つれていらっしゃい。忠等がその子との付き合いを強制しているのなら、別れさせますからね」
「あれ? 同性愛なんて不潔な、って言わないの?」
「言ったって聞きゃしないんでしょう? 無駄なことはしないことに決めたのよ。しなくても勝手にやるんだから、あんたは。この間小論文を書いてるのを見て、諦めました」
「あれは楽しんでやってたんだけどなあ」
「だからでしょう。親が何も言わなくても、楽しみで勉強してしまうんだから。何か言うだけ無駄よ。自分で必要だと思ったことしかやらないんだから、あんたは」
あはは、と忠等は笑ってしまった。物分かりのよい、というか、良くなってしまった母上である。
しかし、その物分かりの良さも、忠等の目が本気であることを訴えていたためだったのだが、忠等は全く気付く様子はなかった。本気になった忠等がどれだけ厄介な存在か、母は忠等が小学生だった頃から身をもって知っていたのだから。
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