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 III


 克等が三年からボールを奪い、走る。一年生ながら、兄を蹴落として準レギュラーの地位を得ていた。忠等も、サッカーはやるより見ていたほうが好きだから、文句の一つも言わない。

 克等は、レギュラー決定の二年のディフェンダーと対峙して、それも抜いた。コートの外で、ちょっと手ぇ抜けば?と松実が呟いている。その傍らで宏紀が、かっちゃん荒れてるねえ、と呟く。さらにその横で、ファイルを抱えた忠等が苦笑していた。

 荒れの原因を知っているらしい。まだ気にしてるのか、と呟いて、ストップウォッチを覗き込む。隣の一年生二人が興味津々の体で忠等を見た。忠等はまた楽しそうに笑う。

「ほら、昨日物理のテストが返ってきたろう?」

 二人が同じように強く頷く。この日も昼まで中間テストをしていたのだ。物理の先生はテスト中に答案を返して生徒たちをどん底に突き落とすことで有名だった。

「それの点数が思ってたより悪かったんで荒れてるんだ。四十三点だったかな? 一応俺理系でしょう? その弟だ、って負い目でもあるんじゃないかな。あいつはあいつでいいのに」

 ちなみに、克等もこのレベルの高い学校で十位内を争っているくらいに頭が良い人だった。それは、最初のテストで成績上位者が張り出されたときに明らかになった。その時の結果は、宏紀がダントツ一位、克等八位、松実十位、だっただろうか。

「ええっ! 僕より良いじゃないっ! ひどいな、もう。僕なんて、三十八点だよ。初めて取った、こんな点数」

 ひどくない、ひどくない、と忠等はぱたぱた手を振った。そうですかぁ?と松実が不安げに問う。

「物理のテストはね、平均十点とか、二十点とか、そのくらいのテストなの。三十八点って良い方だよ。克等にもそう言ったんだけどねえ。で、宏紀はどうだった?」

 やっぱり俺に振るの?と宏紀は肩をすくめる。両側から見られて、宏紀は恥ずかしそうに頭に手をやった。

「俺のは結構良かったから。言ったらかっちゃんとかまっちゃんにタコ殴りにされそう」

「そんなん、宏紀が頭良いのは今に始まったことじゃないでしょ。それに、昔と違って今は真面目に勉強しちゃってるんだもん。成績も上がって当然。言ってみ」

「九十六」

 ぽかん、と松実が大きく口を開けて、約三十秒経過。それから、大袈裟に驚いた。どひぇーっと。どうしたどうした、と一年生の仲間が集まってくる。

「聞いて聞いて。宏紀ったら、今回の物理のテスト、九十六点だってっ!」

 うっわぁ、どっしぇーっ、ひえぇーっ、と様々な驚きが見られる。さながらびっくりのオンパレード、といったところか。

 外野がこれではコートの中の人も練習どころではない。ぞくぞくと人が集まってくる。宏紀のその点数を聞いた前部長が、他とは少々様子の違う反応を示した。

「すくちゃん記録をあっさり抜いたなあ。すく、八十九だったろ? 最高点」

「だっけ?」

 当の本人はとうに忘れている。その物理のテストの点数が荒れの原因だった克等は、さらに不機嫌になって、サッカーボール片手に宏紀に詰め寄る。

「…っんでそういうバケモンみたいな点が取れるんだよ、お前はっ!」

「ヤマ?」

 ぴしっ。額に青筋が立つ。ヤバかったかな、と宏紀は口元を押さえて後ずさった。克等が大きく息を吸い込む。

「ヤマで九十六点も取るんじゃねぇっ!!」

「……んなこと言われても……」

 怒る克等に見下ろされ、宏紀はしょんぼりと上目使いに克等を見た。その表情が妙に愛らしくて、そばにいた友人たちが思わず生唾を飲んだ。それで嫉妬してしまったのか、忠等がむっとした表情をする。そんな三人をそばで見て、松実は一人楽しそうに笑った。





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