II-2




 初夏の太陽が、宏紀を頭上から照らしている。青い空に白い雲がちらほら。太陽を隠すほどではない。

 二十分ほど自転車を漕いで、ようやく目的の病院に辿り着いた。古い建物だが、この辺りでは優秀な部類に入る、最新の設備が整っている救急指定病院である。

 救急用の玄関の傍の駐輪場に自転車を止めて近くの入り口から入ると、そこで辻が待っていた。
 そばには、先に着いたのか辻と一緒にきたのか、今のM中の番格である竜太がいた。不安げな表情をしている。それを見て辻がびっくりしているところを見ると、宏紀の姿を見てほっとして緊張が解れたのかもしれない。

「二人の容体はどうなんですか?」

「今は落ち着いてる。少し入院することになるけど命に別状はないって。若くて良かった、って医者は言ってた。悪いね、呼び出したりして。昨日まで謹慎中だったんだろ?」

 こっちだ、と辻が先に立って歩いていく。後ろを追いながら、宏紀は苦笑した。

「連絡いただけて、良かったですよ。一体、何があったんですか?」

「喧嘩したようだね。昨夜の傷らしい。病院に運ばれてきたのは今朝で、その時には意識がなかったって話だ。親御さんは安心したようで、仕事に行かれたよ」

 宏紀は眉をひそめて首を傾げた。前日の夜喧嘩して、その傷があまりにひどくて動けず、そのまま朝を待った、ということになるのだろうか。
 とすると、今病院で治療を受けているのは、一晩中傷だらけの身体をふきっさらしの場所に留めたことによる衰弱のためということになる。

 喧嘩をしても、弱いとはとても言えないその二人をそこまでにしたのは、一体誰なのだろう。話をちゃんと聞きださないといけないな、と宏紀は思った。

 辻が入っていったのは、外科病棟の六人部屋だった。集中治療室から動けないくらいだったら、と考えていたが、そうはならなかったので、宏紀は少しほっとする。

 壁側に二人は並んで寝ていた。宏紀の顔を見て驚いたらしく、今田が飛び起きた。痛てて、と腰を押さえる。

「いいから寝てて。無理しても治らないだけだよ。病気と違って、怪我は気力では治らないんだから」

 今田が横になるのを手伝って、宏紀は二つのベッドの間に椅子を持ってきて座った。

 で?と宏紀が言うと、何があったのかと尋ねる前に、事のあらましを二人は興奮気味に語った。宏紀は二人が同時に話すことを大体正確に聞き取って、驚いてしまった。

 話によると、二人は前の日の夜、遊んでいたゲームセンターで見知らぬ中学生くらいの男に因縁をつけられ、思わず売られた喧嘩を買ってしまったのだという。

「それが強いんすよ。俺らも腕っ節には自信あったんすけど、どうにも歯が立たなくて。俺ら二人がかりで一人に負けたのって、宏紀さんだけだったんすから。プライドずたぼろっすよ」

「ぼろぼろになるほどプライド強くないでしょ?」

 そう苦笑いながら言ってやったが、確かにこの二人は強かった。その二人が一人の中学生に負けてしまったというのだから、一体どれだけ強いのか。本職の大人にも勝ててしまうくらいだったら、宏紀でも歯が立たない。

 相手は一人だったというから驚いたのだ。この二人が二人で行動していて、リンチに会うことはまずないだろうが。強いから、ではなく、そういうときはさっさと逃げるように、と宏紀に教えられていたからだ。

 宏紀の頭には、中学生とここ数年のうちに卒業した元中学生のデータが、脳内データベースとして入れられている。そして、該当する者はいなかった。

 制服は市内の、彼らがいるM中とはまるっきり反対側にあるS中のものだったという。制服を着ていてくれて助かったというところか。これで迷わずS中に殴り込める。

 宏紀が考え込んでしまったことで、不安を感じた辻が声をかけた。呼び出しはしたものの、高校生になった宏紀を巻き込むわけにはいかないと今更ながらに気付いたのだろう。

「土方。今何を考えている?」

「どうやって報復してやろうかと思いまして。挑戦状を突き付けてやってもいいんですけど、逃げられちゃかないませんし。やっぱり殴り込みですかね。人数に物を言わせて威圧しまくった方が良さそうですから」

 そう答えた宏紀は、本当に楽しそうな顔をしていた。止めても無駄ですよ、と辻に向かって笑ってみせる。大事な後輩をこんな傷だらけにされて、宏紀が黙っていられるはずがなかったのだ。

「土方さん。俺らの仇、取らなくっていいんですからね。土方さんはもう高校生なんですから。足洗ってるんですから。話聞いてもらえただけで、すごく嬉しかったっスから」

 枕木はベッドの上から宏紀を見つめ、すがるようにそう言った。もちろん、宏紀の決心はかたい。だが怪我人に心配をかけたくなくて、宏紀は安心させるためだけに頷いた。





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