第一章 再会 I-1

お話を始める前に
 このお話は、二十世紀末前後の時代設定で執筆されています。現代では、携帯使えばいいのに、と思われる場面も、高校生はまだ持っていないのが普通の時代ですので、ご了承ください。







第一章 再会


 I


 桜の花の色も鮮やかな四月のある日。
 都立S高等学校では、丸一日使って部活動説明会が行なわれていた。

 体育館で新入生歓迎会が催され、その後、学校中で勧誘合戦が繰り広げられる。

 わあっ、と校庭が急に騒がしくなった。
 観戦する新入生たちの目の前で、サッカーの試合が行なわれていた。

 ジャージ対制服。制服を着ているのがおそらく新入生であろう。実際にボールに触れさせて勧誘しよう、という作戦のようだ。
 その新入生チームの方が、どうやら得点したらしい。制服の少年が一人、ガッツポーズで走り回っている。

 拡声器の声が、新入生はどんどん参加しよう、と誘いをかける。途中参加を呼び掛けているらしい。

 それを聞いて飛び出してきた少年がいた。少年の出てきた場所には、彼のものらしいブレザーを抱えている少年がいて、楽しそうに笑っている。混ぜてくださーいっ、と飛び出してきた少年はコートに入っていく。

 ゲームは敵味方などあったものではなく、新入生たちは両方のゴールを狙って突っ走っている。進行方向を変えるのがジャージ姿の上級生の役目らしい。

 再び、先ほどゴールした少年がシュートする。ゆさっと強くネットを揺らして、ボールはゴールのなかに落ちた。

 親友のブレザーを胸に抱いて、土方宏紀は近くで喋っている少女たちの会話を盗み聞きしていた。少女たちはいささか興奮して、何度もシュートを決めている少年について語っていた。

「あの人ね、うちの中学校の出身なのよ! 去年は都大会まで導いたんだから!!」

「へえ、すごーいっ。名前はなんていうの?」

「祝瀬くん。祝瀬克等」

 すくせかつひと。宏紀は口の中でその名を呟いてみた。
 懐かしい語感、懐かしい響き。舌がその名前を愛おしむ様に紡いでいる。ただし、二字ほど違っているのだけれど。

 体がぶるぶるっと震えた。何かが起きる、確信のような予感。

 けれど、宏紀はその震えを払いとばしてやった。もう、後戻りはできない。すべての駒は出揃ってしまった。もちろん、予期してはいなかったけれど。ならば、身構えて立ち向かうしかない。

 吉と出るのか、凶と出るのか。今はまだわからないけれど。

「まっちゃん、ガンバレ」

 小さな声で親友を応援してやる。
 まだまだ高校生活は始まったばかりだ。どうせ避けられない嵐なら、遭遇する前の今の時間を楽しんでおくに限る。

 そんな宏紀を見つめる人物がいたのだが、まだ宏紀に気付く様子はなかった。





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