III-7




 マキと一緒に三人での夕飯を終えると、マキは洗い物をして帰っていった。宏紀は不安な気持ちを押さえ切れず、マキを見送ってすぐに忠等に飛び付いていた。

 忠等に抱かれて、ようやく落ち着いたらしく、その腕の中でいつものようにぼんやりとする。

 忠等に「心の傷を治したい」と言われたことが良かったのか、そのうち宏紀が一つだけ、話してくれた。
 たくさんある問題のうちの一つだけだったが、その比重は大きかった。

 宏紀の心の中には、自殺願望があった。実は、本当に死にたかったのは小学六年生の頃だった。
 自分が、殺してやりたいほどに大嫌いだったのだという。その当時はしかし、傷一つ付けられなかったというのだ。本当に死んでしまうことに怯えていた。

 リストカット症候群もどきの仲間入りをしたのは中学一年生の冬のことだった。
 このころではもう、自分に自殺するほどの勇気はないと割り切っていたから、初めて切ったときは本当にびっくりしたということだった。しかし、それと同時に、手首を切ることでの解放感も味わってしまっていたのかもしれない。

 二年生になると症状はピークに達し、治る前に切ってしまうという最悪の状況になっていた。
 この年は、骨折して中学校のサッカーの大会にも出られなかった年だった。その不健康な生活も災いしていたのだろう。

 この時ほど、不良達と付き合うようになってからも友人関係を続けていた松実の存在がありがたいと思ったことはなかった。
 松実の協力のかいもあって、三年生になってようやく落ち着いたのだった。ということだった。

「本当、まっちゃんには感謝してるんだ。まっちゃんがいなかったら、今頃死んでるな、って思うとさ。まっちゃんがいてくれて良かった。本当、そう思ってる」

 そうか、と呟き返して、忠等は宏紀を抱き寄せた。きっとこれを言うのにも相当の努力を必要としたのだろう。
 そう思うと、忠等は、こう話してくれただけでも嬉しかった。

 忠等に抱きしめられて、宏紀はその胸に頭を押しつけて、安心して眠ってしまった。





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