そんな事情もあり、少し大きめの旅行鞄に二人分の着替えを詰め込んでバスを降りた二人は、ちょうどバス停前に鎮座する旅館の開け放たれた門を見上げて立ち止まっていた。
 夕食の時間までにそれぞれで集まる予定になっているため、朝番で昼過ぎまでバイトしていた忠等と恋人の自宅でクーラーで涼みながら仕事に励んでいた宏紀がそこに現れたのは、夏の日差しも陰りだした夕暮れ時、午後5時過ぎの事だった。

 メールで連絡を取り合っているおかげで、他のメンバーはすでに集まっていることが分かっている。
 宏紀と忠等は2人で部屋を用意してもらい、他4人は全員同じ部屋に泊まることになっている。
 忠等も同じ部屋でも良いと言っていたのだが、恋人たちの時間を邪魔する気はない、と全員に気遣われた形だ。

 近くには有名な観光名所もあって立地条件の良い旅館は、休日は盛況で予約も取れないらしい。今回も偶然できたキャンセルに合わせての日程になっている。
 夏の京都は盆地だけに蒸暑いのだが、それでも夏休みゆえに観光シーズンではあるのだ。

 2室続いて友人たちと隣り合わせの部屋だそうで、カウンターでチェックインすれば「お連れ様はすでにお着きです」とのことだった。

 玄関先も門構えに前庭にと風情たっぷりだったが、館内も中庭側に廊下を配置して口の字に建物が建てられていて、総2階建ての純和風。
 いまどき珍しい寝殿造りが基本の建物で、建物を支える柱や梁も太く立派なものが使われていた。
 これでいて、10年ほど前に建て替えられたばかりの新品の建物だというから驚いてしまう。

 案内されたのは東向きの1階部分だった。
 東向きと西向きの棟はすべて客室でそれぞれ各階8室、南向きは1階が玄関、ラウンジ、売店等、2階が客室という配置で、北向きの棟は大浴場や大広間、オフィスなどに充てられている。その他に、離れなどもあるらしい。
 これだけの建物を詰め込んだ旅館の敷地は観光地至近の立地と思えないほどの広さだ。

 サービスも心づくしでそれなりの対価を取られるものの、地価も高い京都の一角、経済状態は大丈夫なのかと他人事ながら心配になったりもするのだが、そこはこの北側に敷地を分けて建てられているビジネスホテルの収益で十分に賄われているらしい。

 この旅館経営者家族の縁故から宿泊料は割安に提示されていたが、それでも2万円に近い。
 これでほぼ原価だといわれていたが、実物を見れば納得の料金だった。
 そもそもの目的が京野菜を使った会席膳なのだから、そちらは主催のプライドにかけて手は抜かないだろう。

 中居に案内されて踏み込んだ室内には、すでに到着していた友人たちがそれぞれに寛いでいた。
 2人に用意されたのはこの右隣だが、中居にはこちらに案内するように指示されていたらしい。

 12畳の広い部屋は男4人寝転んでいればさすがに手狭に見えるようで、クーラーも使わずに窓全開で夕涼み中の彼らはそれぞれに浴衣姿で昼寝中だった。
 身内感覚のあるらしい中居が呆れた表情をしているのだが。

「みなさんお休みのようですので、本日お泊りのお部屋にご案内いたしますね。お夕飯はこちらのお部屋に18時頃を予定しております。まだ30分ほどありますし、お風呂でも浴びて来られたらよろしいですわ」

 ではどうぞごゆっくり、と2人のために用意されていた隣室に送り届けて、中居は立ち去って行った。
 贅を尽くした宿は中居の教育も天下一のようで、物腰が見ていて綺麗だ。

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