国立大学で学力レベルも全国有数という学校に通う学生は、バイトに割く時間も限られた過密スケジュールのために少ない小遣いをやりくりして生活していることが多い。
 この5人組も同様で、たまに休みが合うと一人暮らしをしている誰かのアパートに集まって持ち寄った酒やつまみで飲み交わすのが定例となっていた。

 そのため、なのだろう。自然の成り行きで集まった4人組はそろって忠等のアパートに飲食物持参で押しかけてきた。
 目的は当然、存在だけは知っていた忠等の遠距離恋愛中の恋人だ。
 昨年のうちにそれが男性であることと随分と物わかりの良い男前な性格の人物であることは知られていたものの、姿かたちは忠等が隠匿するために影も見たことがなかったのだ。
 その人物がこの場にいるのだから興味を持たないわけがない。

 真夏に狭いアパートの部屋で大学生の男が6人ひしめき合えば、誰が考えても暑苦しい。
 おかげでクーラーとサーキュレーターとして使っている小さな扇風機がフル稼働だ。

 そんな中、持ち寄った惣菜と酒を小さなちゃぶ台いっぱいに広げて、床にそれぞれ適当に陣地を作り、宏紀は初めての台所を駆使して簡単なつまみの作成中。

「なんや普通の男やなぁ」

 そんな宏紀の後姿を眺めて、相場が遠慮のない感想を述べる。
 途端に不機嫌になった忠等に蹴飛ばされた。

「お前の眼は節穴かよ。美人だろうが」

「恋は盲目、痘痕も笑窪」

「やかましい」

 からかわれても即座に言い返しつつ、宏紀が紙袋で持ってきた東京土産と仕事先でもらってきた手土産を開けている。
 東京土産は誰でも知っているようなお土産用銘菓で、手土産は京都で有名なバームクーヘンのようだ。
 どちらも甘いもののため、男ばかりの飲みの席では人気がない。と思いきや、開けた途端に手が2本伸びてきた。
 どちらも一人でパフェを食べにカフェに入るほどの甘味好きだったりする。

 酒は焼酎がメインと割りものとしていろいろ用意していて、忠等はコーラ割りを飲んでいた。
 よく出回っている銘柄の乙類焼酎でロックでもよく飲まれるもののためか、コーラ割りの隣には湯呑をロックグラス代わりにしたオンザロックが手つかずで置かれている。
 水割りにするにはもったいないが生のままだと強すぎるらしく、自然に氷が解けたくらいがちょうどいいとは宏紀の持論だ。

「でも俺、フツメンだと自覚してるよ?」

 お待たせ、と持ってきた皿をテーブルに置きながら恋人の評価を否定する宏紀に、忠等はむすっと不機嫌になって見せる。
 アルコールが入ると少し子供っぽくなるのが忠等だ。その恋人はほとんどザル、むしろ引っかかるところ皆無なワクだったりするが。

「宏紀がフツメンなら俺なんかブサメンになっちまう」

「え〜。忠等は誰から見てもイケメンでしょ〜」

 笑いながら否定して、自分で作って持ってきたつまみを指でつまむ。
 竹輪にきゅうりの浅漬けやチーズを刺して一口大に切り分けたものや、その材料の残り、クリームチーズとイブリガッコという秋田の沢庵を刻んだものを和えたもの、魚介のマヨネーズソース和え、それらを乗せられるクラッカーなどが一枚の平皿に分けて盛り付けられている。
 居酒屋で出される前菜のようだとそれらを見た男たちは歓声を上げた。
 全て先ほどスーパーで買ってきた材料に少し手を加えただけのものなのだが。

「去年祝瀬に彼氏がいるってバレた時から1年ずっと惚気られてたからな、俺らは。少し採点厳しくなってるかもしれん。彼氏さんも十分イケメンさんだと思うよ、俺」

 大学では珍しい関東出身者がこのグループにはもう一人いて、この中では一番落ち着いた常識人な彼がそうやってフォローする。
 気遣いの細やかなタイプのようだ。

 惚気られていた、との情報を聞いて、宏紀は少し恥ずかしそうに頬を染めた。
 愛されている自覚はあるが、直接の面識がなかった人物から一方的に知られていた事実はさすがに少し恥ずかしい。

 それを聞いていて思い出したのか、あれ?と一人が首を傾げる。

「去年いえば、彼氏さん去年高校生やなかったかいな?」

「はい。今大学1年ですよ」

「せやったら、未成年やんか。なんや自然やったから気ぃ付かんかったわ。酒飲んじゃあかんやん」

 湯呑を口元に傾けつつそう指摘されてきょとんと目を丸くした宏紀は、それから恋人に視線をやって首を傾げる。

「今どきの大学生って意外と真面目?」

「天下の京大生ナメんなよ?」

「天下の東大生が質問してますが何か?」

「……チッ」

 あっさり負けて悔しそうに舌打ちする忠等に、楽しそうに笑う宏紀。
 それから、周囲を囲む初対面の人々を見やり、そっと唇の前に人差し指を立てた。

「内緒でお願いします」

 何しろ過去が過去で身内がアレな宏紀だ。法律などは他人に迷惑をかけない範囲で遵守しなくても構わない論派で、これは何故か警察官な父親も同様。
 それ故に、未成年の飲酒が法律に反している事実は事実として知ってはいても遵守する気は毛頭ない。
 そもそもからして、未成年の飲酒を法律で規制することに何のメリットがあるのか理解できないのだから仕方がない。

 その恋人である忠等は成人するまで飲酒を断っていた真面目一辺倒だった過去を知っている友人たちは、恋人である事実を知っているだけに宏紀の不真面目さが意外な様子なのだが。

「ま、人の過去は色々あるさ。宏紀に関しちゃ、今更感あるからな。これでいてザルだから放っておけば良いよ」

 大切に溺愛している恋人に対する評価としては意外な忠等の発言に、さらに驚く友人たちである。

「大人しそうな見た目にそぐわず、意外と不良さんなのか?」

「意外と不良さんだねぇ」

 不良さん、などという言葉にぷっと吹き出した忠等が、それを気に入ったらしく復唱する。意外とどころか、なのではあるが。

「ホンマかいな。ささっとこないつまみなんか作ってくれるし、土産もんなんか持参してくれるし、できた嫁さんにしか見えへんで」

「せやなぁ。悪いことなんかとんでもないことや〜って物怖じしそうに見えるで」

「その大人しいさんに助けられたのはどこのどいつらよ」

 つい先ほどの事だ。引き合いに出されて、夕刻の事件を思い出したらしい。
 確かに、すぐそばに忠等がいたというのに、助けてくれたのは宏紀の方だった。
 スゴんだわけでも暴力を振るったわけでもなく、ただ毅然とした態度で対峙しただけでチンピラを追い払ってしまったその手腕は、確かにただ大人しい人にはできない芸当ではある。

 そういやあ、という顔を揃えた4人に、忠等は悪い顔で笑うのだが。

「俺もそうだけどな。中坊の頃は色々無茶やったんだよ。いやぁ、若かったな」

「若かったねぇ。あの頃の忠等もカッコ良かった」

「マジで? 嬉しいね」

 懐かしがる表情が伝播して宏紀も同じような表情になって、周りの目も気にせずイチャつく。さすが熟年夫婦。空気が甘い。


[ 132/139 ]

[*prev] [next#]

[mokuji]

[しおりを挟む]


戻る



Copyright(C) 2004-2017 KYMDREAM All Rights Reserved
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -