II-5
忠等が宏紀を好きになるのに、一日もかからなかった。
この年にしてはなかなか頭がいい宏紀が、昔の自分と重なって、うれしかったせいもあるだろう。
だが、そんなことよりも、いろいろ話してみて、知り合えたときにはもうその人柄に惹かれていた。
欲張りなくらい宏紀が欲しかった。もっと知りたい、宏紀のすべてを。そう思った。
一週間も付き合っていると、互いのいろいろな面が見えてくるものだ。
宏紀は大のサッカー好きで、忠等は体育が大の苦手。
宏紀は文系、忠等は理系。
しばらく不良生活をしていただけで、忠等の名は結構町中に知られていること。
幼なじみの不良中学生、マキに逆恨みしたチンピラによく絡まれて、宏紀は実は喧嘩上手なこと。
いつもつっぱっている忠等と、いつも仏顔の宏紀。
正反対に見えるこの二人は、本気になると大人顔負けの強い目を持っていた。
いつのまにか、二人の関係は向かいの家のマキにも知られてしまっていた。
ただ、宏紀の家庭の事情を知っているマキである。一ヵ月前と比べて驚くくらい明るくなった宏紀を見せられて、彼はこの不思議な関係をすんなりと受け入れた。どちらが宏紀にとって良いことか、一目瞭然だったのだ。
マキは二人に自分が関係を知っていることを打ち明け、その上で応援すると約束した。
付き合い始めて二週間たったある日のこと。
忠等は宏紀が台所で紅茶をいれるのをぼんやり見ながら、首を傾げていた。
とにかく、不思議だった。
この家に毎日通ってきていて、一度も宏紀の家族に会わないのだ。日曜日も来ているのにもかかわらず。半分は泊まっているというのに。
本当に両親と一緒に住んでるんだよな?と思わず確認してしまった。びっくりした顔で忠等を振り返った宏紀は、やがてくすっと笑った。
「そうだね。もしかしたら、一年ぐらい会わないでいられるかもしれないよ。本当に滅多に帰ってこないから。最近、お夕飯を自分で作ろうかなって思ってる」
論点がずれたようだが、宏紀は何でもない素振りで軽く返した。
宏紀にとっては、それは世間話程度の物らしい。平然とお茶を注いでいる。飴色の液体が、ポットからカップに移動していった。
「淋しいとか、思わないのか?」
「昔はね、思ってた。何でうちは、って。でもさ、そのうちどうでもよくなっちゃった。別にいないわけじゃなくて、帰ってこないだけだし。いじめられる材料にさえならないなら何も問題ないって考えたら、本当にどうでもよくなっちゃった。今はチュウトさんもそばにいるし。ね」
それより、と、先ほど買ってきたばかりのポテトチップスを開けながら、宏紀が忠等を見やる。
「今日は泊まっていけるの?」
「ああ、明日は日曜だしな。ゆっくりしていける」
わーい、と喜んで、宏紀は忠等の隣に腰を下ろし、擦り寄った。
[ 11/139 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]戻る