II-3




 ひっく、ひっく、と子供の啜り泣く声が聞こえる。

 忠等は、宏紀とつながったままで、泣いているその子を見つめた。泣いている顔でさえ、可愛いと思う。何も纏わない裸のその身体もまるで子供で、罪悪感がふつふつとこみあげてきた。

 宏紀の中から自分自身を抜いてやって、謝るように痛め付けていたその部分を優しく撫でてやる。指先にわずかに血がついた。ぴくっと宏紀の身体が震えた。

「……ごめん」

 息苦しそうにしながら、泣きながら、宏紀は弱々しく首を振った。

 あんなひどいことをした自分を許してくれるのだろうか、ただ反射的におこした行動だろうか。

 散らかされている服の中から宏紀のシャツを見付けだし、丸くなっている彼の身体にかけてやる。

 まだ泣いている宏紀を見ながら、忠等は後悔の溜息をついた。

 何ということをしたのだろう。何とひどいことをしてしまったのか。だんだん自分が許せなくなっていく。

 かわいそうに、宏紀はぷるぷると震えていた。

「……宏紀」

「ん……」

 忠等が呼び掛けてやると、宏紀は泣き止もうと頑張りはじめた。

 忠等はその行動にも驚くばかりだ。嫌だったろうに、恐かったろうに、痛かったろうに。普通、こういう時は泣き止もうとなどしないものではないのだろうか。

 そう思って気が付いた。

 痛いとは言っていたが叫ばなかったこと、嫌だともやめてとも恐いとも言わなかったこと。乱暴にしていたのに。それどころか、忠等に無我夢中でしがみついていた。痛みをどうにか逃がそうと頑張っていた。

 強姦したはずが、和姦になったのか? そんな馬鹿な。

「チュ…トさ……っ」

 涙を拭って、それでもひくひくいう喉に鞭打って、宏紀が話し掛けてくる。

 ん?と聞き返してやると、驚いたことに宏紀は恥ずかしそうに笑ってみせたのである。

 びっくりして、忠等は宏紀を見つめた。強姦されたばかりの子が、その加害者に見せる顔ではなかった。優しさの溢れる微笑み。驚いた。どうして?

「す…です……」

「……え?」

 なにを言われたのか、頭が理解しなかった。聞き返して、ようやく、まさか?と気付く。

「……好き」

 気付いたと同時に言われてしまって。あんなことされたのに。何故? どうして? また堂々巡り。





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