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 平日だというのに珍しく学生のペースに引きずられて飲みすぎた年長組が、自室に引き上げて爆睡モードに入った頃。

 エンジン音をほとんど感じさせない最近流行のハイブリッドカーが、自宅のカーポートに収められ、ついで、玄関がそっと開かれた。一人残って庭の片づけをしていた忠等が、パンパン、と手を払って窓を閉めるのと、それは同時だった。

「おかえり、宏紀」

「ただいま」

 答えた声は、少しはしゃぎすぎたのか、疲れた感じが滲み出ていた。

 元々煙の出にくい材料を使っていたものの、さすがに少し煙たい部屋を、換気扇を回して換気して、宏紀は残してあった洗い物に手を出す。その宏紀の背後に忍び寄り、忠等は、背中に抱きついた。

「それ、明日にしない?」

「ダメ。邪魔しないで。お風呂、先に行っておいでよ」

 おんぶお化けのように背中に張り付いた忠等を、特に振り落とすこともせずそのまま放置して、宏紀は黙々と皿洗いを続ける。むぅ、と不機嫌そうに唸るものの、そこから離れ難いのか、忠等は宏紀の仕事の邪魔をそれ以上はせずに、そのまま大人しく待っていた。それは、大人しいといって良いのか、大人気ないといったら良いのか。

「はい、おしまい。なぁに?甘えたいの?」

 パッパッと水を振り落として手拭きタオルで水気を拭き取る。その宏紀を、忠等は動けないようにぎゅっと抱きしめた。

「明日、起きれなくしても良い?」

「ダメ。父さんたちの朝ごはん用意しなくちゃ」

「もう。お母さんなんだから」

 しょうがない子だなぁ、などと子ども扱いして見せて、忠等はその頬に唇を寄せた。背中に抱きついているからそれ以上届かないだけなのだが、宏紀が身体を捻ってそれを自分の唇に引き寄せる。

 優しいのは、触れ合った所までだった。触れてしまえば、堰を切ったように激しく求め合ってしまう。何年経っても、何歳になっても、それはずっと変わらずに。

「このまま抱きたい」

 背中を向けていたはずの宏紀と正面で向き合って抱き締めあって、唇を離した隙に忠等がそう囁く。宏紀はそれが何を示したのかわかったらしく、ぱっと顔を赤らめて俯いた。

「イヤ?」

 確かめられれば、イヤだとは言えず。弱弱しく、首を振る。

「宏紀。俺を見て、ちゃんと答えて。イヤなの?」

 顔を上げたら、何故か真剣な表情の彼氏の視線にぶつかった。それは、宏紀の身体に金縛りをかける魔法の眼差し。とろん、と蕩けるような表情で忠等を見返し、ふんわりと笑った。

「……欲しい」

「良い子だ」

 直接的な欲求を返せば、満足そうな声色が誉めて、その唇が、頬に、顎に、首に、肩に、少しずつ降りていく。両手は宏紀の腰を抱いたまま。唇だけで愛撫して、身体を覆うシャツを邪魔そうに突いた。その唇に促されて、宏紀の細い指が自分でシャツのボタンをはずしていく。

 前をはだけた途端に、胸の飾りを舌が転がし通り過ぎる。

「……ぁん」

「ん? どうした?」

 自分でそうさせたのだろうに、思わず上がった色っぽい声に、忠等は意地悪く問いかける。イヤイヤをする宏紀に、くっと喉を鳴らして笑った。

「ねぇ、お母さん? 良い子で待ってたご褒美は?」

「良い子はご褒美のおねだりしないよ」

「じゃあ、悪い子になっちゃおうかなぁ」

 おそらく、宏紀はうちのお母さんだから、という今日の高宏の言葉を覚えていたのだろう。ふざけてそんなことを言う忠等は、くすくすと楽しそうに笑いながら、宏紀の左の胸にある赤く尖ったモノに噛み付いて、右の胸にもある同じものを指先で強く摘んだ。もちろん、その力加減は、宏紀の身体を知り尽くした者だけができる、絶妙なバランス。

「あぅっ」

「きもちいい?」

 強く噛んだところを舌先で転がすように撫でれば、また別の快感を刺激して、あっという間に欲情した身体がピクリと弾む。身体の持ち主の意思など、おかまいなしに。

「いやぁ、いじわるぅ」

「だって、悪い子だもん」

 快感に身を捩りながら詰る声に、忠等は心地良さそうに笑うだけだ。腰を強く抱き寄せて下腹部を密着させれば、お互いの熱が布越しに擦りあわされる。

「ね。ご褒美」

「……何が良いの?」

「口でして?」

 エッチなお願いは、耳元でやらしく囁くのがルール。ついでに耳たぶをペロリと舐めれば、くすぐったそうに身を捩りながら、口元から悩ましいため息が漏れた。

「ここで?」

「……お風呂、行こうか」

 本当ならキッチンでしたかったけれど。四人の共同生活では、極力面倒な後始末は避けるに限る。それに、今日は少し酔っ払っていて、後で片付ける気力は残りそうにないから。

 素直に頷いて、自分で歩かずに忠等に抱きつく宏紀を軽々と抱き上げて、そそくさと風呂場へ退散する。キッチンの明かりを消すのは忘れずに。




 翌朝。ただ一人二日酔いも残さずにいつもの時間に起き出して、宏紀は家族全員を起こして回る。

「起きて〜。遅刻しちゃうよ〜」

 何事においても、この家では宏紀お母さんに頭が上がらないらしい。



おしまいです





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