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 どこからどのようにこの世界に放り出されたのかわからないが、気に入っている木綿のパジャマを着ていたのを自覚したのは、魔王の爪を短く切り揃えた大きな手がそのボタンをはずし始めた時だった。
 魔王がこの造りの服に驚かないということは、この世界にも似た構造の衣類があるのだろう。

 しかし、キスをされた時点で確かに確信に近いものはあったが、まさか本当にこんな状況に晒されるとは。
 この体勢から見ても、和磨が受けなのは疑いようがない。
 これが逆の立場ならもしかして嬉々として受け入れていたかもしれないが、これから為される事態が想像できるだけに、自分の置かれた状況を客観視して嘆くしかない。
 せめて相手が王と付く肩書きでなければ抵抗もしただろうが、一応これでも命は惜しいのだ。

 状況がわかっていないにもかかわらず大人しい和磨に、少しは疑問を感じたのだろう。
 服を脱がす手はそのままに、和磨の耳元に顔を寄せ、腰に響く低い声で囁いてくる。

「大人しいな。抵抗しないのか?」

「……抵抗して良いの?」

 その返事は、そもそも無駄な抵抗を諦めていたことを示していて、その状況分析能力と判断力と計算高さに少し驚く。

「まだ子供のようだが、もしや経験があるのか?」

「耳年増なんだよ。
 魔王なんだろう?
 変に抵抗して命を取られるくらいなら、大人しくヤられておいた方がまだマシだろうさ」

 一応そのように本心に近いところを答えて、身体は開け放しても受け入れるわけではないせめてもの意思表示に、顔だけはぷいとそっぽを向いた。

 妙に可愛いそんな態度に、魔王は随分と気を良くしたらしい。
 今度は満足げにゆったりと笑みを浮かべた。

「大人しいご褒美に、最高の快楽を与えてやろう。
 媚薬を嗅がされるようなものだ。素直に身を俺に預けて置けば良い」

 言う間にも下着以外をすべて脱がされていて、身体が資本の仕事だからそれなりの自信はあるのだが、じっくり見つめられる視線がやけに恥ずかしく、頬を染めた。

 触れるだけのキスをして、魔王の唇は間近で和磨を見つめながら首筋へと移動していく。
 左の大動脈が脈打つすぐ上に吸い付かれる。
 チクリとかすかに痛んだのは、歯の痛みでないことを考えればキスマークを付けられたのだとわかるのだが、まるでいずれこの場所に歯を立ててやろうとマーキングされたようで、和磨の身体が無意識にピクリと震えた。

 和磨が快感ではなく震えたことに気付き、魔王は幼い子供を宥めるように和磨の髪を漉き、頭を撫でる。

「綺麗な髪だな。これほどまでに黒い髪は初めて見る」

「……この世界に黒髪の人はいないの?」

「灰や青が混じった色ならば見ることもあるが、ここまで純粋な黒はないな」

 反対に、灰色や青が混ざった黒髪の方が見たことがなく、和磨も驚いてしまう。
 そもそも髪色が深紅だという方が珍しいというものだ。
 少なくとも、和磨が知る限りにおいてありえない配色だと思う。
 魔王だという名乗りから、何でもありのイメージがあるおかげで、気にもならないが。

「肌の色も独特だ。白かと思ったが、少し黄みがかっているようだな。
 赤黒く日に焼けた肌はあれど、元からこのように色の付いた肌色はこの世界にないものだ。
 随分長く生きているが、異邦人の存在は確かに珍しい。
 他にどのような違いが見られるか、楽しみだ」

 身体の構造そのものは変わらないようだな、とついでに感想を付け加えて、再び和磨の身体に顔を寄せる。
 会話をすることで和磨の気持ちを落ち着かせてくれたらしい。
 いつのまにか、多少怯えもあった瞳の色に落ち着きが取り戻されていた。

 次に魔王が唇を寄せたのは、胸にピンク色の彩りを添えている以外に何の役にも立っていない、乳首だ。
 申し訳程度の小さなそれを唇で覆い、中央を舌で丁寧に舐め上げる。予想はしていたものの、思わぬ快感に身を捩った。

「っ……ん……」

「そうそう。素直に声を上げておけ。堪えると快楽も弱まるぞ」

 楽しそうというか嬉しそうというか、笑いながら左右の乳首に刺激を与える魔王に、和磨は少し悔しそうに眉を寄せながら、乱れる呼吸の隙を見つけて憎まれ口を叩く。

「脱がないの?」

「ほぅ。乗り気だな」

「俺だけ脱いでると恥ずかしいだけだよ」

 言われて見下ろせば、魔王自身は一糸乱れぬそのままだった。
 なるほど確かに、と苦笑を浮かべ、魔王はそそくさと着物を脱ぎ捨てた。
 その行動の素早さは、すっかり忘れていたものを指摘された照れ臭さすら読み取れる。
 どうやら意地悪のつもりだったわけではないらしい。

 着物の下は全裸だった。
 和磨がここにいたのは不測の事態のはずで、それはいつものことなのだろう。
 ただ、その身体の中心で男の象徴となるそのものがすでに準備万端に逞しく屹立しているのも見せ付けられて、和磨は自分の置かれた立場を否応なく思い知らされ、赤面して顔を背けた。

 和磨の反応の理由は目線の先を追っていればすぐに思いつくことで、魔王は再び和磨に圧し掛かりながら今度は自嘲の笑みを見せた。

「久しぶりとはいえ少しがっつき過ぎだな。酷いことはしないと約束しよう。この腹を満たすまで付き合ってくれ」

 現状にそぐわない真摯さで請われれば嫌と言う気にもなれない和磨は、一瞬戸惑ってからゆっくり頷いた。





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