14
恋人の腕の中から抜け出して、和磨はテラスに落ちてきた小さな焼け焦げた機械を覗き込んだ。
中央に小さなガラス状の球体を抱えたそれは、どうやらホワイトボードや彩色ペンと同じ失われた古い文明の遺物であるようだ。
指先でつついて熱くない事を確かめ、それをつまんでルーファウスの隣に戻る。
「ねぇ、ルー」
「あぁ、何だ?」
「これも今は滅びた古い文明の遺物?」
和磨に尋ねられて、ルーファウスは驚いたように和磨を見返した。
天上世界に攫われる以前の和磨に問われたならばあっさりその通りだと答えたであろう質問だが、今の和磨にはリュシフェルの記憶がある。
その人が記憶にないというのなら、疑う価値のある事象だと判断できるはずだ。
「そのはずだが、知らないか?」
「過去にそんなに高い文明があった記憶がないんだけど」
「ならば、この箱庭の世界を造った者の持っていた技術だな。
城の倉庫にいろいろ転がっている。
後で見に行ってみると良い。けっこう楽しいぞ」
この世界が誰かの箱庭だと最初に指摘したのは和磨だったが、ルーファウスはそれ以来この世界を箱庭だと認識したようだ。
あまりにあっさりと告げられて、和磨にはふぅんと気のない返事をするよりなかった。
結局のところ、ここが箱庭であろうがなかろうが、失われた技術があろうがなかろうが、どうでも良い。
そこに存在している物を利用して、ただ面白おかしく生きていくだけだ。
「そんなに気になるか?」
「また来るのかな、って」
「そうしたら片っ端から壊してやるだけさ。そのうち懲りるだろ」
だね、と笑って頷いて、和磨はその機械を窓の外へぽいっと放り投げた。
背後から抱き寄せられて身体を預けて、嬉しそうに笑みを浮かべ。
「ルー。愛してる」
甘えるように抱きついて唇を寄せる。
受け止めて、ルーファウスの方からも餓えたようにその甘い唇に吸い付いた。
首にすがり付いてくる細い腕を感じ背が撓るほどに抱きしめると、翼の根元を覆うふわふわの羽毛が指に絡みついた。
愛撫するように執拗に撫でてやれば、そこが性感帯であるらしく和磨が熱い吐息をこぼす。
和磨に引っ張られるように、広いベッドに押し倒す。
開きっぱなしだったテラスの窓が、音もなくひとりでに閉められた。
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