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 そこに見えたのは、天から差し込む一条の光だった。

 天とをつなぐ門が文字通り空にあるが故の光景であることは理解できるが、二律背反として互いにその存在をあるべきものと捉えているにしては、随分とぶしつけな干渉だ。

 光という存在を結局弱いものとしてしか知りえない地底の生き物たちが動揺しているのが、空気が震えていることで伝わってきた。
 こんな奥まったところにまで伝わってくるくらいに強い反応は、おそらくすべての生き物たちが怯えていることを魔王に伝えた。

 ルーファウスはふんと鼻を鳴らしただけだった。
 明らかに、不機嫌以外の何物でもない。

「無意味な演出にばかり凝りおって、臆病者が」

『魔王ルーファウス。我を愚弄するか』

 声と共にテラスに人の影が現れた。
 何もなかったところに現れた人型の姿に、しかしその登場の仕方を知っている和磨は驚きもせずただ逃げるようにルーファウスの元へ戻り、彼を抱きとめてルーファウスもまた鼻で笑うのみだった。

「光自体には何の力もなかろう。
 むやみに魔物どもを怯えさせるだけのこけおどしだ。
 悔しければ本体を見せたらどうだ?」

 聖王ほどの存在が支配する地を離れて相対する属性を持つ世界を侵食しては、この世界そのものが崩壊してしまう。
 だからこそアウルアンティウスの救出にもいけなかった魔王自身は当然それをわかっていて、しかし煽り文句として堂々と口にした。
 他の世界にこれほどまで強く干渉したのだ。そのくらいの度胸を求めるのはおかしな話ではない。

 言及されて、しかし聖王は都合の悪い言葉は聞かなかったことにしたようだ。
 若く張りのある手を和磨に向けて差し出した。

 あいかわらず翼を持たない男性の姿である聖王は、今回は成人前後ほどの実に若々しい姿を見せていた。
 整った甘いマスクを微笑ませ、投影映像でありながらその手を取らせるように差し伸べる。

『帰るぞ、リュシフェル』

 その手を見つめ、和磨はしかし実に冷たい眼差しをしていた。
 ほんのり黄味がかった肌の細い手を差し出す先は、テラスの投影映像ではなく今も背後から抱きしめてくれる現実の恋人であるのは、至極当然のことだ。

 呼ばれたその名はアウルアンティウスから受け継いだ現在は和磨を示す名で、和磨は無視をする代わりにそっぽを向いた。

「私の巣はここです。他に帰るべき場所などありません」

『父なる創造主に逆らうか』

「私の父は貴方ではありません、聖王。
 確かに私は聖に属する天使ですが、貴方個人に仕えているわけでもない。
 創造主というだけならここにも一人おられます」

『聖に属する者が天上に住まうは自明の理』

「棲み処は自分で決めます」

 取り付く島もないとはこのことだ。
 聖王が口にする言葉はすべて天上世界では常識とされる事柄であったが、天使アウルアンティウスであった頃ならいざ知らず、人間としての生き方考え方で十七年間かけて成長してきた和磨の心には何ら響かない。

 そもそも、この聖王は存在の仕方からして胡散臭いのだ。
 ごく身近な場所で実際に生活している姿が見え、すべての最上位魔族から敬われている魔王に対し、聖王の存在は最上位天使にすら生身を見せることはなく、塔の頂点に隠れたままこのように投影画像のみであらゆる場所に現れる。
 それはつまり、生身の姿で天使の前にすら立つ事ができない何らかの事情があるのではと邪推することもできるわけだ。
 そうだとしても、直属の部下であるはずの最上位天使たちにすら信用を置けないのであれば、そんな相手に身を投げ出すほどの忠誠心を持てるほど和磨は盲目でも従順でもない。





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