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 アモン一人では支えきれないカイムを反対側から支えて魔王城に戻ってきた和磨の姿に、ベルゼブブもさすがに驚いたらしい。
 目を見開いて和磨の姿を見つめ、確かめるように魔王に視線を向けた。

「お帰りなさいませ、陛下。……カズマ様、ですよね?」

 確かめるまでもなく、その黒髪も黄味がかった肌も和磨以外にはありえないのだが。
 思わず確かめてしまうベルゼブブに、ルーファウスは苦笑して返して和磨を振り返った。

 だいぶ回復してきたようで傷跡は多少痺れが残るものの自分で立てないほどでもないカイムをアモンに任せて、和磨はベルゼブブを見返して可愛らしく首を傾げてみせる。

「似合いませんか?」

「いえ、よくお似合いです」

 そこは否定するつもりもないし、その必要もない。
 和磨が本来持つ配色に合わせるならば、純白よりも似合っているくらいだ。
 ただ、天使の翼は白と決まっているようなものであったから、戸惑ってしまっていたにすぎない。

 わけを知っているらしいアモンとカイムも苦笑気味で、そもそも最上位であるカイムが負傷して戻ってきたことにもまた驚かされた。

「アモン、ベルゼに話しておけ。行くぞ、カズマ」

 何やら少し苛立った様子のルーファウスに腕をとられて、和磨は引きずられるようについていく。
 魔王の行動を制限しようとは露とも思わないベルゼブブは軽く頭を下げてそれを見送ったが、そのルーファウスを呼び止めようとする和磨の声でまた驚かされることになった。

「えっ、ちょっ、もう、待ってってば。ルーっ」

 魔王を愛称で呼べる人物はこの世でただ一人。
 姿が姿であっただけに異邦人である和磨として扱ってしまったが、その背に翼があるのだから推して知るべきだったのだろう。

「……アウル、か」

「いや、カズマだよ」

 否定したのはアモンだ。
 その視線は二人が立ち去っていった方を見送っていて、少し嬉しそうに微笑んでいる。
 それから、恋人と顔を見合わせて笑い合った。

 確かに和磨はカイムを傷つけた犯人だ。
 だが、その傷を治したのもまたその和磨なのだ。
 その治癒力はさすが最上位天使で、すでにカイムは自力で歩けるまでに回復しており、刻々とその症状は快方に向かっている。
 傷口はすでに跡形もなく、ただその部分がしびれているのも、治療のために注がれた聖力がカイムの持つ魔力に反発しているだけなのだ。

 しばらく放っておけば聖力も自然に抜けると知っているから、アモンもまた必要以上の心配はしていなかった。
 代わりに、結局は事のすべてを傍観するしかなかった立場で宰相への説明義務があるのもまた、アモンだった。

「だいぶいろいろとすごかったんだ。中でもカズマのあの啖呵は実に爽快だったね」

 きっと和磨にとってはリュシフェルの記憶があってもやはり他人事なのだ。
 だから、純白の翼にも拘りがない。

「漆黒の天使の誕生ってわけさ」

 腹に深々と突き刺さった剣の傷を跡形もなく治してしまうほど聖力を自在に使いこなす和磨は、確かに戦天使リュシフェルなのだ。
 けれど、和磨ははっきりと魔王の腕の中を巣だと断言した。
 魔属性の思考を理解し、だからといって聖属性に所属することを否定しない彼は、まさしく両属性を併せ持つ人間だ。
 能力は聖属性で思考が魔属性に傾いているところ、棲み分けが上手くなされていてバランスが良い。

「漆黒の天使ですか。まさしくカズマ様に相応しいですね」

「見た目も中身も表すのに実に適格だな」

 どうやら三人の意見は一致したようだ。
 それぞれに笑い合い、魔王の寝室のある方角へ見えるわけでもないが視線を向けた。





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