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 随分長く夢を見ている気がする。

 夢の中で和磨はそう思っていた。
 それが夢であるとわかるのは、自分がその場にいない設定で場面が移り変わっていくせいだ。

 時系列もバラバラで次々に見せられる夢は、天上世界でリュシフェルが他の天使たちに剣の稽古をつけていたり、地底でルーファウスとイチャイチャしていたり、出会ったばかりのぎこちない会話であったりと様々だったが、一応リュシフェルの記憶を辿っているようだ。

 天上世界にも夜はあるらしい。
 天上世界とを繋ぐ門の近くまで散歩に出かけてそのまま連れ戻されてしまったリュシフェルが、夜とはいえ大地も建物もほの明るく白く光る世界で、外に面した回廊に佇み寂しそうな表情で空を見上げている夢を見た。

『ルーに会いたいよ……』

 同調してしまう和磨の耳に、男性にしては高めの済んだ声が聞こえる。

『ルーを愛してる』

『そばにいたいよ』

『必ず帰るから』

 浮かんでは消える言葉たち。すべてが愛した男に向けられていた。
 焦がれるような仕草で、天上世界にも訪れる束の間の闇に手を伸ばす。
 そこに恋人がいるかのように。

『どんなことをしても。
 たとえ違う世界に生まれても。
 たとえ記憶をなくしてしまっても。
 必ず貴方の隣に帰るから』

 そこが、自分にとって唯一の、心安らげる巣なのだから。

『待っていて。ルー』

 その例え話が現実になったのが、和磨の存在だった。

 聖力を使う天使たちが持つ最強の力。それは言葉を現実に変える力、《言霊(ことだま)》だ。
 最上位にもなればそれは運命すらも左右する。
 この力には、彼らの王である聖王ですら干渉は不可能だ。

 口に出した時は一縷の望みに賭けたようなものだったけれど。
 強い思いに裏打ちされたその《言霊》は、最大の効力を発揮したらしい。

 夢と共に渡されるリュシフェルの記憶は、そのすべてでルーファウスへの愛を語っていた。
 性質が真逆で、双方共にそれぞれの世界の重要人物で。
 その障害は途方もない。

 天上世界に対する愛情が消え去ったわけではないけれど、唯一の相手とは比べられないのだ。

 そばにいたい。そのリュシフェルの強い気持ちに、引きずられる。
 たとえ相手がリュシフェル限定だとしても、魔王らしくなく優しくて、ふんわりと包みこんでくれる包容力に身を預けたくなる。

 リュシフェルと同じ気持ちは結局返せないのかもしれない。
 それでも、和磨は和磨の気持ちでルーファウスに恋をした。
 抱かれれば嬉しいし、離れていれば寂しい。不安にもなる。
 和磨にとっては初恋なのだ。
 おかげで自覚するまでに時間がかかってしまい、まだ本人にも伝えていないけれど。

 あの腕の中に、帰りたい。

 そこが自分の巣なのだから。





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