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 自分の自慢に満足したのか、それから彼女は首を傾げた。

「それで、あなたは誰?」

 父が母のもとへ新顔を連れて現れれば気にもなるだろう。
 一緒にユーリがいる分だけ警戒している様子もなく、純粋に興味であることが見て取れる。

 和磨が自己紹介をする前に、メフィストが間に入ってそれぞれを紹介することになった。

「魔王陛下お気に入りの異邦人でな、名をカズマという。
 カズマ、我が娘のマリアンヌだ」

「はじめまして。へぇ、異邦人さん。初めて見た」

「そりゃあそうじゃろう。今いる異邦人はカズマだけじゃ」

 メフィストすら初めてなのだ。その娘となればなおさらだろう。
 マリアンヌは興味津々の様子で和磨をしげしげと見つめていたが、それからニコリと笑った。

「可愛らしい人ね」

「……ありがとうございます」

「あら、やだ。反応も可愛い。和むわぁ。御人形さんみたい」

 女性のそんな反応は元の世界でも常に受けてきたために目新しさもなく、和磨は苦笑するだけだ。

 マリアンヌにとって和磨のような存在は身の周りにいなかったのだろう。
 わくわくと目を輝かせて父の方へ身を乗り出した。

「ねぇ、お父様。カズマを私にくださらない?」

「……それはできぬ相談じゃの。魔王陛下に縊り殺されてしまう」

「ん〜。じゃあ、一晩だけ」

「それもダメじゃ。最初の晩くらい父に譲れ」

 明日には帰すがな、と意地悪く笑って言うメフィストに、残念そうにマリアンヌが地団駄を踏む。
 会話のノリはさすが親子だ。息はぴったり合う。

 父親にあしらわれて、マリアンヌは次は直接和磨に詰め寄った。

「じゃあ、次にこちらに来る時はうちに泊まって頂戴。それなら良いでしょ?」

「独身女のいるところへは陛下が出さないと思うがの」

「う、うるさいわねっ。しょうがないじゃない、良い人がいないんだものっ」

「見合いを片っ端から断っておいて言うものじゃのぉ」

「お父様を超えるような人がいれば結婚してあげるわよ」

 ふん、と拗ねたようにそっぽを向くマリアンヌに、和磨ですら苦笑を隠せなかった。
 そもそも史上最強の魔力使いが基準では、世の男性たちには酷というものだ。

 一方、マリアンヌが現れてからずっと大人しいユーリはと見やると、空気椅子に姿勢を正して座ったまま俯いている姿が目に入った。
 緊張してなおかつ項垂れているようにも見えるその姿に、和磨はあぁと納得してしまう。
 彼はどうやら、マリアンヌに惚れているようだ。
 十歳近い年の差はあるが、結構お似合いなのではないかと思う和磨である。

 ともかく父と娘が周囲も気にせずにわいわいと騒いでいると、そこへ背の高い初老の女性が気配も感じさせずに現れた。
 メフィストとマリアンヌにとっては背後に当たっており、気付いたのは和磨だけだったが。

 和磨が大騒ぎしている二人に注目を促す声をかける隙もなく、彼女は両手で二人同時に拳骨を御見舞いしていた。

「……って〜」

「痛ぁ〜い! ……あ、母様」

「あ、母様、じゃありません。
 なんですか、いい年をした大人の女が大騒ぎして。診療所の待合室では静かになさいな。
 あなたもよ、メフィスト。娘と一緒になってはしゃがないでちょうだい」

 すらりと細い体格で背中に鉄板でも入っているように姿勢が良く白髪の混じった灰色の髪を首の上に団子にまとめ、渋い色合いのドレスの上に白衣を纏っている。
 その白衣がなければ、和磨のイメージの中では洋館で働く女中頭に近い。
 白衣を纏っていても、ナースより女医と表現されるべき姿だ。

 彼女はどうやら診察しながらこちらの会話を聞いていたらしい。
 真っ直ぐ和磨に近寄ると、右手を差し出した。

「いらっしゃい、カズマ。アンジェラです」

「はじめまして、和磨です。突然押しかけてすみません」

 紹介されていないうちから名を呼ばれたのは確かに不思議だったが、聖力使いが持つ能力を聞いていて少し前にマリアンヌに対して自己紹介した記憶もあるので、そのカラクリも簡単に解ける。
 ニコリと人好きのする笑みを表情にのせて、差し出された手を握った。

 手の甲を見せられていればその手に口付けただろうが、手は握手を求める形だったのだ。
 それが握手を意味するもので合っていたようで、アンジェラは満足そうにその手を放した。

「礼儀正しい良い子ね。うちの御転婆娘に少し爪の垢でも分けてやってもらいたいわ」

「明るい素敵なお嬢さんだと思いますけど」

「まぁ。御世辞でも嬉しいわね。ありがとう」

 確かに和磨がアンジェラに会いに来たのが主旨なので根本的に間違ってはいないのだが、ここへ連れて来た案内人のメフィストも先に出迎えたマリアンヌもそっちのけで当人同士が挨拶を交わす。
 その二人に、メフィストもマリアンヌも口を挟めなかった。
 まだ頭を抱えているところを見ると、だいぶ強く殴られたようだ。

「随分と強い聖力を持っているのね」

「えぇ、そうみたいです。でも、使い方がさっぱりわからなくて」

「それを習いに来たと判断して良いわね?
 だとしたら、時間を無駄にはできないわ」

 いらっしゃい、と促して先に立ってアンジェラが奥の部屋へ入っていく。和磨も彼女を追いかけていった。
 後に残ったのは、そろそろ痛みから回復し始めたメフィスト父娘と相変わらず緊張して固まったままのユーリの三人のみだった。





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