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 和磨がそうして切々と訴えている途中で家の外に出てきたメフィストは、彼らの会話に口を挟まず戸口に立ち止まって眺めていた。
 師匠の立場から教えるよりも同年代の友人に導かれることで大きく成長することも世の中にはあるものだ。

「さっきだって、その岩を持ち上げて放り投げるだけだったら、もっと簡単だったんじゃないの?
 できるだけ揺らさないように、他に余計な圧力をかけないように、慎重に作業する訓練だったんでしょう?
 何のために技を磨くのか、その根本を念頭において基礎訓練を繰り返すことって、すごく大事な要素だと思う。
 どんなにすごい技を持ってる人だって、基礎がしっかりしてないと結局いざという時に力が発揮しきれなくてへろへろになっちゃったりするものだもの。
 それに、史上最強って最上位魔族にまで認められている人に目を掛けられてるんだから、もっと胸張って誇らしく思ってなくちゃ、お師匠様に失礼だよ」

 いつの間に気づいていたのか、そこにいる事が当たり前のように和磨はメフィストを振り返ると、ねぇ、と同意を求めて小首を傾げて見せた。
 メフィストですら思わず戸惑ってしまうほど唐突な振り方をした自覚はあるのだろう。
 和磨はメフィストを振り返ったついでのように照れ笑いをしてみせる。
 何か真剣に暑苦しく語っちゃったよ、という、元の世界にいた頃ならば同年代にからかわれる前に自分の行動を誤魔化そうとするような行動は、もう無意識なのだろう。

 長々と説教を受けたユーリは、存外真剣にその話を聞いていたようだ。
 ぐっと黙り込んで二の句が出てこない。

 しばらくユーリの反応を待っていたメフィストは、それから肩を竦めて替わりに補足を加えた。

「魔力使いの一生は修行に明け暮れるようなもの。
 師の元で修行できるのはそのうち始めの数年のみだ。
 ただ修行に精を出すだけならば一人でもできる。
 先人に教えを請うことのできる今のうちに、自分のすべきこと、自分にできること、担うべき将来の役割を見極めねばならん。
 ただ修行の日々を送るのでなく、私の元にいる間に良く考えなさい。
 確かにユーリには目を見張るような派手な魔力量はない。
 だが、それを補って余りある才能を持っておる。
 自分でそれに気付かねばな」

「自分で……」

 師にも認められた才能など考えたこともなかったユーリだ。
 新しい課題を、それも今までで最も重要かつ最も難しい課題を与えられたのはわかって、ユーリは改めて考え込んでしまった。

 ようやく自分の将来のために考えるべき命題に気付いたユーリの様子に満足そうに頷き、メフィストはその手をパンと叩いた。

「ユーリ。カズマに言うべき事があるだろう?」

「……ごめん」

 それは、ただ師に促されて嫌々口にしたものではない心からの謝罪なのがわかる。
 和磨は気にするなと言うように首を振って返した。

 和磨は気分を害されてはいなかったようだと見てほっとしたメフィストは、ユーリに与えた課題が数分数日で出るようなものではないと知っているため答えを急かしもせず、気分を入れ替えるように手に提げた弁当入りの袋を見せた。

「さて、カズマにこの世界の街を体験してもらおうかの。
 懇意にしている聖力使いは街に住んでおっての、アモン様の弁当の大ファンなのだよ。
 昼食は向こうで摂ろう。なかなか美味い飯屋があるのだ。カズマもきっと気に入るだろうて」

「街って……行ったことないのか? こいつ」

「こいつはやめなさい、失礼な。
 あるわけがなかろう。異邦人だぞ」

「……えぇっ!?」

 どうやら、まったく気付いていなかったらしい。





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