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 瞬きして次に目を開けたとき、あまりの眩しさに和磨はまた目をつぶった。
 何度か瞬きをして目を慣らす。

 物が見える程度には明るいが太陽の眩しい日差しとは無縁な地底世界で十日も暮らすと、太陽の力強さに目が眩んでしまうようだ。
 まるで吸血鬼にでもなったような自分に、和磨は思わず苦笑する。

「ここが地上です。そろそろ目は慣れましたかの、カズマ殿」

「はい。お気遣いありがとうございます。
 殿はやめてもらえますか?
 俺自身が偉いわけでもないし、恥ずかしいですよ」

 魔王の権力を笠に着てもっと横柄に振舞ってもおかしくないところだが、和磨は人懐っこい年少者として年上への礼儀を忘れない。
 そんなところが最上位魔族たちに気に入られていた要因なのだろう。

 なるほど、と一人で納得して頷くメフィストだ。
 その頷きを了解と受け取って、和磨は物珍しそうに周囲を見回した。

 それは西洋の田園風景となんら変わるところのない景色だった。
 小麦畑が広がり、家が点々としてあり、少し離れたところに家が集まっていてあそこが街なのだろうと思われる。
 遠くには山が見え、上空を雲がゆったりと移動していく。
 小鳥が何かに驚いて一斉に飛び立ち、やがてまた地上に降りた。
 街から離れた向こうに見える深い森の上空を猛禽らしい姿が舞っている。

 実にのどかだ。

 後ろを振り返ればこんもりした林を背にした小さな小屋のような家が建っていて、メフィストが自然に入っていったので彼の住まいだろうと想像がついた。
 人類史上最強の魔力使いの家にしては、とても慎ましやかだ。

 案内されたわけではないので後を追う事は憚られて、和磨は庭先のベンチに腰を下ろした。
 空を見上げ、流れる雲をぼんやり追いかける。背後の家の中からはメフィストが誰かを呼ぶ声が聞こえていた。
 何度も呼んでいるということは、返事がなく姿が見えないのだろう。

 やがてメフィストは戻ってきて和磨に声をかけた。

「我が家を案内しましょう。どうぞ」

 立つように促されて従いつつ、探し人はもう良いのだろうかと和磨は首を傾げた。
 見つかったようには聞こえていなかったせいだ。
 そんな疑問に気付いたのだろう。メフィストが苦笑を返す。

「弟子が同居しておるのですよ。
 紹介しようと思って呼んだのだが返事がない。
 大方、裏で修行に励んでいるのでしょう。
 一度集中すると周りが見えなくなる奴でしてな。後で紹介しましょう」

 つまり、呼びつけることは諦めたようだ。
 後で叱られるんだろう、と和磨は予想して苦笑を浮かべたが所詮他人事だ。
 戸口で手招きをするメフィストに引き寄せられるようにして、和磨はその後を追いかけていった。

 家の中も外見どおり小ぢんまりとしていた。
 台所とリビングは空間を共有していて、ダイニングテーブルを一セット置くのがせいぜいの広さしかない。
 浴室には水がめが一つ置かれていて手桶が壁にかけられているのみ。
 トイレは床に空けられた穴に排泄物を落とす仕組みだ。その割りに臭いが薄いのは何かしらの工夫がされているのだろう。

 二階にある三つの客室のうちの一つを今夜使うようにと言われた。
 三つの中で一番大きな部屋は弟子が使っているそうで、小さい方の中では日当たりの良い方だった。

 部屋に荷物を置かせてもらって再び一階に降り、メフィストの部屋の前を通り過ぎて裏口から外へ出る。
 そこは洗濯物が干してあって芝が張られた裏庭で、表から見えた林まではちょっとした空間になっていた。





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