序
近頃、便利な世の中になったなぁ、と思っていた矢先のことだった。
及川和磨(おいかわかずま)17歳。
神奈川県のど真ん中にある可も不可もない平凡な高校に通う二年生だ。
長めに伸ばしてリボンで括った漆黒の髪と薄型レンズを使ってもだいぶ厚みのある野暮ったい眼鏡以外、ほとんど特徴のない平凡な男子高校生。
それが俺だ。
いや、まぁ、毎日色を換えて結んでいるリボンのおかげで、ちょっとした有名人ではある。
眼鏡のせいで歪んで見える顔の輪郭とレンズの向こうに見える本物とは違って見える眼のおかげで、ガリ勉もしくはオタクの謗りを受けているものの、微妙に間違っていないので否定はしない。
ちなみに、眼鏡は極度の乱視もあってコンタクトが合わないのだからどうしようもないし、実際のところ、眼鏡を取れば超絶美少年、を地でいっていると自分では思っている。
ニキビ一つない肌理細やかな肌に天使の艶リングがキラキラ輝くサラサラの髪、女の子のようにプルンとした唇に小さくともすっと通った鼻梁、二重瞼の奥にある瞳は黒目が大きくて庇護欲をそそる。
自画自賛、と言われそうなものだが、一応この顔で稼いでいるものだから卑下する機会もない。
近頃ハイティーン向けのファッション誌で引っ張りだこの美少年モデルとは俺様のことだ。
さて、美少年振りを理解してもらったところで、本題に入る。
何が便利になったかと言えば、なんのことはない、インターネットのことだ。
もともと中学時代に所属していた文芸部で流行っていたBLの世界にうっかり足を踏み入れたのが運の尽き。
今では足抜け不可能なほどドップリ浸かった腐男子(?)の俺にとって、無料で読めるネットBLサイトはまさに宝箱そのものだった。
微妙に間違っていない、の真相はまさにここ。
男子がBLに嵌ってるってのは確かに珍しいし、ネットオタクの領域に近い現状も否定できないわけだ。
まぁ、とはいえ、そういう変わった趣味があるといってもそこは御伽噺と割り切っているからでもある。
俺自身は普通に女の子が好きだし、間違っても受けに感情移入することはない。
攻めならアリかもなので、ノーマルというよりはバイかもしれないけれど。
BLと一口に言っても、様々なジャンルがあるわけで、俺が中でも気に入ってるのがファンタジーを題材にした冒険活劇だ。
もともとファンタジー世界の話でも良いし、異世界トリップもありだと思う。
ご都合主義なのは、まぁ、そもそも主題がラブだしね。
その方が読みやすいと思うのさ。
とはいえ、まさかそれが自分の身に降りかかるとは、思ってもいなかったんだよ。
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