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「今のぅ、カズマから彼方の世界の神話なる物語を話して聞かせてもろうておったところなのじゃ。
 ゆっくりして行けるならば、共に聞かぬかえ?」

「ほぅ、それは興味深い。私ごときが同席させていただいてもよろしいので?」

 確認した相手は魔王陛下で、ルーファウスは好きにしろとあっさり頷いた。
 今はアスタロトに割り当てられた時間であり、そのアスタロトが良いと言うのなら拒否する理由は特にない。

 それに彼は、世界の知識を集めた書庫への出入りを許可されている程度には信用ある人間だ。
 問題のある者ならばここまで来ることすら許されないはずで、その意味でも拒否する必要はまったくないのだ。

 ベルゼブブに椅子を勧められて、メフィストは恐縮しつつも素直にそれに腰かけた。

 その時は丁度、イカロスの話をしていた。
 蝋で固めた羽を両手に持って大空へ舞い上がった愚かな勇者の話だ。
 神という存在の介在しないこの話は、この世界では随分ととっつきやすいはずだ。

 雲すらも飛び越えてずっと高く昇っていったイカロスは、燃え盛る太陽に焼かれて地に落ちてしまう。
 そんな話をまるで本当にあった話のように語る和磨に、最初に御伽噺だと注釈を入れられているにも関わらず、皆熱心に聞き入った。

「この世界ならば本当にありそうな話よの」

 ふむふむと何かに納得しながらの感想に、和磨もこの世界の構造を思い浮かべて確かにと頷いた。

 和磨が一方的に話をするわけではなく、こちらの世界と比較するようにして教えてもらってもいたので、星を基本に考える和磨の故郷と大地が基本のこの世界の違いもすでに理解している。
 太陽は星の海に浮かぶ恒星ではなく、限りある大空の際限を舐めるように運行しているのだ。
 頑張って昇ればやがて太陽にもたどり着く。

「でも、太陽に近づいてどうしようとしていたんだろうな」

「太陽がどこにあるのか確かめたかったんじゃないかな?」

 常識人を気取るならばまず思いつかないくらいに突拍子もない理由だ。
 だが、好奇心旺盛で、かつこの世界の構造を知らない一般的人間並みの知識しか持ち合わせていなければ、ありえないと言い切れない。
 そもそも三層構造であることまでは常識でも、この世界がどのように形作られているのかまで知っているのは、天使や魔族でも上位以上のほんの一握りだ。

 ルーファウスが理解に苦しむと言いたげな口調で呆れて見せるのに正解に近いであろう答えを返した和磨に、全員が尊敬のまなざしを向けた。
 誰もが思いつかない発想だったようだ。

 その注目が恥ずかしい和磨は、そのように考えた理由をまた語り始める。
 その当時のギリシャではこの世界のように大地が中心であり、平たい大地の上を星や太陽が巡っているのだと信じられていた。
 それならば毎日明るく照らしてくれる太陽はどのくらいの高さにあって、どのくらいの熱を持って地上を照らしているのか、興味を持つことは不思議でもなんでもない。

「この世界とは少し違って、星も月も太陽と同じように空を巡っていて毎日少しずつ動くタイミングがずれていくんだ。
 星は一年かけて同じ位置に戻る。
 太陽もね、通る道筋が少しずつずれていって、一年周期を繰り返してるんだ。
 だったら、それを操っている存在があるはずじゃない?
 神様の身近な国だからね、会いに行くつもりだったんじゃないかな」

「それならばわかりますな。
 私も初めてこの地底世界へ来た時は魔王陛下への興味一心でしたからの」

 納得を示したのはメフィストで、神の世界をこの地底世界に置き換えられたことでその興味の元が一気に身近になった。

「しかし、無謀ですな」

「うむ。無謀じゃの」

「まぁ、所詮御伽噺ですから。そもそも、蝋の翼では空飛べませんよ」

 確かにその通りだ。納得の内容で、全員頷いた。





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