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 一方、くじ引きの結果が出たらしく、四人が会話に戻ってきた。
 一人ホクホク顔なのはベルゼブブで、どうやら彼が一番手らしい。
 無表情のときは感情がないようにも見える彼だが、ここ一両日は実に表情豊かだ。

「私、アモン、カイム、アスタロトの順になりました。
 カズマ様、明日はよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、お手柔らかにお願いします」

 仕事第一人間の彼が興味を持つことと言えば政治のことくらいしか思い当たらず、和磨は一番役に立てそうもない分野であることもあって少しぎこちなくなってしまう。
 その和磨にベルゼブブはニコリと笑いかけた。
 普段笑わないわりに人を和ませる穏やかな笑顔だ。

「そう気負わずに。お茶に付き合ってくだされば宜しいですよ」

 子供だということは見ればわかる。
 その人に政治の話を聞いても詳しいことはわからないだろう。
 しかし、その世界で生きていれば世界の仕組みは自ずと理解されるものだ。
 子供にでもわかるレベルから、カズマのレベルに合わせて知りたいことを問いかけていけば、最終的にはだいぶ深い話までたどり着くだろう。

 まだ幼い外見に気遣われたのだろうと感じて、和磨は恐縮するのだが。

 まるで教師と生徒のようなベルゼブブと和磨の様子に焦れて、アスタロトがそこに割り込んでくる。

「それはそうと、カズマに聞きたい事があるのじゃ」

 きっかけは焦れたせいだが、聞きたい事があるのは本当だ。
 何でしょう、というように首を傾げた和磨に、アスタロトは身を乗り出した。
 老女の外見にしては少々若すぎる行動だが、外見年齢など何の判断基準にもならないとベリアルに教えられているので、和磨も何の疑問も持たずに受け入れている。
 ただ、そもそも違和感すら感じないのもそれはそれでおかしな話だが、この時の和磨にはそれがおかしいとは思えていない。

 ともかく、そんな興味深々な態度でアスタロトが尋ねたのは、午前中に魔王に尋ねて解答が得られなかったそれだ。

「朝に魔王陛下が創られた翼ある馬のことだがの」

「ペガサス、っていうんですよ。
 っても、実在するわけではなくて神話上の生き物です」

「それじゃ。
 神話とは、何じゃ?」

 え?
 尋ねられた意味がわからず、和磨は思わず聞き返してしまった。
 そして、はたと気付く。
 この世界にはそもそも星の運行がないため星座がベースのギリシャ神話はそもそも成り立たず、創造主が明確なのでそれ以外の神など想像の範疇外。
 したがって、神という存在や創世神話といったものがこの世界に生み出される素因がなかったのだろう。

「向こうの世界には、文化ごとにいろいろな創世記があって、それぞれに神様っていう人間の上位に位置する存在が信じられているんです。
 大抵は国と天地と人間を造った存在で、人間の営みを見守ってくれていることになってます。
 まぁ、科学技術の進んだ現代では御伽噺だと認識されてますけどね」

 人間の祖先は猿であるというのが常識となって久しい世界で、神に作られたのだと未だに信じている人は稀だろう。

「つまりは、空想の話なのかの?」

「えぇ。子供向けの夢物語ですよ」

 断言するものの、それは多神教の風土が根付いた無神論者の比較的多い土地柄で生まれ育ったからこその認識であって、他の文化圏で育っている人にとってはまた違った見解があるのだろう。

 幼少期からギリシャ神話やケルト神話、旧約聖書に古事記などといった神話の数々を読んで育っているので、細かいところまではまだしも大まかな話の流れは理解している。
 覚えている限りで話そうかと申し出れば、アスタロトとベルゼブブが揃って是非にと頷いた。
 明日の予定は神話語りで決定のようだ。





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