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その日の昼食はうどんだった。
粉を水で練って伸ばして茹でたものに薬味になる葉物野菜を微塵切りにして添えて、ゴマと出汁としょっぱい調味料をベースにしたタレにつけて食べるそれは、まさに冷やしうどん。
確かに創作料理の得意なアモンだが、まさかここでうどんを作って見せるとは思わず、和磨は感動で目を輝かせた。
「これもカズマの世界にあった料理なのかい?」
「まさにソウルフードに近いよ! 旨っ!!」
美味な上に故郷を思い出させる味で、和磨は敬語も忘れてはしゃいで答える。
丸いテーブルの中央にドンと置かれた笊に載せられた山盛りのうどんは、それでも六人で囲むと余る心配はない量で、他の者の口にも合ったらしく六膳の箸が忙しなく行き来する。
昼食の席に顔をそろえたのは、和磨とルーファウス、ベルゼブブ、アスタロト、アモンに、丁度和磨のために出来立ての服を持って来て試着させようとしていたカイムの六人だ。
いつもは食事など滅多にしないくせにこの人数が昼食に顔をそろえるとは、とアモンが溜息をついている。
人数が増えればそれだけ分け前は減るのだから、その反応も当然のことだ。
最後に残ったタレに薬味をドッサリ入れてお湯で割ったものを飲み干すと、和磨は幸せそうに溜息をついた。
「あぁ、美味しかった」
「気に入ったようで何よりだよ。
けれど、カズマのいた世界は随分と食文化が豊富なのだね。
何を作ってもカズマには知った味のようでなかなか難しいよ」
「広い世界でたくさんの文化がそれぞれの地域ごとに育まれたせいですよ。
交通手段が発達したから、いろんな文化圏の調味料とか味付けとかレシピとかが流通したんです」
「もしかして、カズマも料理をするのかい?」
「しますよ。お手伝いしましょうか?」
実に気軽に申し出るのに、アモンはその心遣いに喜んで目を輝かせた。
「陛下。カズマをお借りしても構わないでしょ?」
「いいですか、じゃないんだな」
拒否されることなどまったく念頭にない問いかけに、ルーファウスは苦笑して手を軽く振った。
持っていけ、もしくは、好きにしろ、という意味だろう。
その隣で早くもカズマが何を作ろうかといろいろ考えを巡らし始めたのが見て取れる。
異議を唱えたのは同席していたカイムだった。
「アモンが食を教わるなら、俺も衣装の相談に乗ってほしいんだがね。
昨日だって陛下が手放さないだろうと思って遠慮したのに、ずるいぞ、アモン」
「なればわらわもカズマのいた世界についていろいろとご教授願いたいのだがの。
随分と文化や技術の発達した世界のようじゃ」
さらに対抗するようにアスタロトまでその尻馬に乗る。
そのまた隣のベルゼブブも、口にこそ出さないものの頷いていた。
異文化に対する興味は全員が旺盛であったらしい。
なんだか引っ張りだこ状態で、和磨は困惑した表情でルーファウスを見やった。
決定権は現在和磨の所有権を有している魔王ルーファウスにあるのだから、縋る相手の認識で間違っていない。
和磨に縋られれば悪い気はしないルーファウスは、軽く肩を竦めるのみだったが。
「そう慌てなくてもカズマはいなくなったりしないぞ。
明日から午後にカズマを貸してやるから、お前らで順番を決めたらいい。
一日一人だな」
和磨の意思を確認することなくルーファウスが勝手に決めて、途端に四人でくじ引きが始まった。
何故か人気者な和磨自身は困惑するばかりだ。
「今日からじゃないの?」
「今日は午前中の続きだな。
カズマの頭の中にはまだ何種類もいるのだろう?
今日の分としてはまだ足りないし、あと二、三種類くらい描いてくれ」
明日からと決めたことが不思議で問いかければ、明確な答えが返ってきた。
生まれたばかりの天馬たちと戯れてしまった自覚のある和磨は、反論もできずただ頷くだけだ。
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