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「そう言われてみれば、最上位の奴らも上位の奴らも俺が創った覚えはないな。減れば補充はするが」

「減るんだ?」

「あぁ。うっかり天使に殺られたりな。
 天使どもは大体は同位の魔物と同等の力しか持たないんだが、戦天使だけは別格なのさ。
 理を知っているから手出ししては来ないんだが、魔物が戦に興奮しすぎて襲ったりすれば返り討ちにされるからな。
 まぁ、自業自得だ」

「戦天使っていうと……リュシフェル?」

「夢に見たと言っていたな」

 そう答えて頷いて、それからルーファウスは何故か苦笑してみせる。

「天上世界での位置づけは最上位二位だが、単純に武力だけで見れば俺も聖王も敵わない最強の戦士でな。
 地底は武力が力関係の基準だ。
 うちで照らし合わせればアレにこの世界を乗っ取られるようなもんさ。
 ま、その分性格が優しすぎる奴だからな、心配はしないが」

 敵のはずだがやけに信用しているらしい台詞で、和磨はさすがに不思議になって首を傾げた。
 くっくっと喉で笑っているルーファウスは、戦天使の話に上機嫌だ。

「アレが剣を振るう姿などは、まるで舞踊を見るようで目を奪われる。
 銀糸の髪が宙を舞い、純白の六翼が纏った衣のようでな。幻想的といって偽りない」

「……何でそんなにベタ誉めなの?
 天使ってこちらから見たら敵でしょう?」

「恋人だ」

「え? 誰の?」

「俺のだ。
 確かに天使だが、天上世界を捨てて俺のそばを選んでくれた。
 聖属性のままだから天と地の理には反しないと理屈を捏ねたが、実際恐るべき大禍もなかったしな」

 それはもう、身分どころか種族も立場も何もかもの障害を越えた大恋愛だ。
 慈しむと表現するのにふさわしい穏やかな表情で恋した天使を語るルーファウスからは、その恋情と愛情が見える。
 元の世界で和磨が憧れた恋愛物語がそこにはあった。

 しかし、だとすれば和磨はとっくにそのリュシフェルの姿を見ていてしかるべきだ。
 食事は別と割り切るにしても、恋人がいるならば毎晩同衾する理由が見当たらない。

「そんな恋人がいるのに、俺となんかシテて良いの?」

「今は手元にいない。会っていないだろう?
 それに、お前は餌だからな。アレも理解してくれるだろう」

「今はいないって……」

「天に奪われた。
 取り返しに行きたくとも、俺は地底を離れられないからな。帰ってきてくれると信じて待つしかない」

 それは、昨日アスタロトが口走っていた奪われた大事なものの正体だった。
 アスタロトも同席していたアモンやカイムも、代わって奪い返しに行く事ができなかったと悔しそうだったが、なるほど確かに、最強とルーファウスが太鼓判を押す天使が自ら帰ってくる事ができないのに、さらに格下の彼らでは手も足も出ないだろう。

 自ら帰ろうという意思が天使にあるのなら、という前提での話ではあるが。

「帰ってくる気がないとか……」

 その問いは、恋人を信じて待っているルーファウスに対して残酷に過ぎる問いだったはずだ。
 しかし、そんな質問も当たり前のように受け止めたルーファウスはただ首を振っただけで、苦笑交じりに答えを返した。

「いや。今は天上世界でも行方不明だ。
 おかげで天からの遠征が途絶えたままだから、間違いないだろう」

「どこに行ったのかはわからないの?」

「どこかの異界だというところまではわかっている。
 その後の消息は、この世界に戻ってきてくれるまでは追えないのさ。
 聖王も同条件だから焦る必要もないがな」

 即答できるということは、逃げられた可能性や捨てられた可能性もこれまでに吟味済みで、それこそほぼ常に消息を追い続けているのだろう。
 何か一つの事柄に執着することを悪いこととする考え方もあることを和磨は知っている。
 その考えで照らせば、恋人を深く愛しているルーファウスのストーカーに近い行動もまた、魔属性ならではなのだ。

 その意味でいくと、聖属性である戦天使が天上世界を捨てるほどに魔王を愛した事実は、それだけですでに理に反しているわけだが。

「会いたいな。ルーファウスの恋人に」

「いずれ会えるさ。近いうちに戻って来てくれるはずだ」

「予言?」

「残念ながら、願望だがな」

 ふっと遠い目で笑うルーファウスに、少し胸が痛くなる和磨だった。
 もちろん彼に横恋慕しているなどという甘い展開ではなく、悲恋の物語に感情移入してしまう傍観者のつもりだ。

「で。手伝ってくれるのだろう?」

「……なんだっけ?」

 突然話題転換されてついていけなかった和磨が問い返す。
 ルーファウスは顎をしゃくって和磨の隣の椅子に置かれたボードを示し、答えを返した。

「新しい生き物の創造だ」

 そういえば、そもそもその話をしていたのだ。
 改めて教えられて、和磨もまた隣に置いたボードを見下ろして頷く。

「これ、使ってみたいからね。何でも良いの?」

「お前が近くに置きたいと思う生き物を描くと良い」

 実に簡単に認められて、和磨は嬉しそうに頷いた。
 創造の手伝いという名目はともかく、初めて手にする画材にワクワクな和磨だった。





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