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 窓の外は昼か夜かくらいはかろうじてわかる程度に薄暗く、外光だけでは時刻の把握もままならない。
 この世界の時計は文字盤が二十に分けられていて、それがどの時間帯を示すのかよくわからないため役に立たない。

 そのため、和磨は素直にルーファウスに時刻を尋ねた。
 返った答えは丁度一般的な朝食の時間だとのことだった。
 ずいぶんゆっくり休んだ意識のあった和磨には意外な答えだ。

 アモンが用意してくれた朝食は、バスケット一つにすべて収まっていた。

 表面はパリッとして中はモチモチのパンに生野菜とハムを挟んだサンドイッチと、軽く炒めた野菜の上にサンドイッチとは違う種類のハムをカリッと焼いて載せ、その上に目玉焼きが載ったハンバーガーのようなもの。
 少し酸味のある果汁のジュースと甘いジャムの載ったヨーグルト。
 ポットにはカップスープが入っていた。

 まるでホテルの朝食のような朝ごはんだった。

 ルーファウスの言う「食文化が発達していない」を鵜呑みにすると、それは素晴らしい献立センスだと思う。

 しっかり二人分用意されたそれを互いに手伝いながらテーブルに並べ、向かい合って食事を摂る。
 口から摂取する食事は不要なルーファウスも、一人で食事をするのはつまらないだろう、と付き合ってくれて、アモンもそれを見越して二人分用意していたものと見える。

 サンドイッチのマヨネーズもハンバーガーのタルタルソースも絶品で、和磨は幸せそうに口元を蕩かせている。
 美味しそうに食事をする姿というのは誰が相手でも気持ちの良いものだが、まして守ってやると宣言した相手の表情ならばひとしおでルーファウスも満足そうだ。

 食事をしながら、ルーファウスは今日の予定を和磨に話す。

「大体の仕事はベルゼに押し付けておいたが、創造主の仕事だけは他人任せにできなくてな。
 食い合って減った分を創っておかなきゃならない」

 食い合い、という言葉は馴染みがなく、和磨は首を傾げて考えた。
 思いついた言葉はなんだか違うような気がしたが、問い返してみることにしたようだ。

「……食物連鎖?」

「いや、文字通り食い合いだ。
 上位以上は生気が主な栄養源だが、下位は基本的に雑食で草でも肉でも食う。
 食う相手に上も下もない。力比べに偶然勝った方が相手を食うだけだ」

 さすがに同じ姿をした相手を食おうという気にはならないようで共食いこそないが、Aという種族とBという種族がいれば、ある時はAがBを食べ、ある時はBがAを食べる。

 食事の頻度が高くないので一日で生き物が半減するようなことはないが、それなりに数は減る。
 その分補充するのがルーファウスの役目だった。

「だったら、肉食の生き物なんて創らなきゃ良かったのに」

「天と地の理から、総数は変えられないからな。
 新しい生き物を創ろうと思ったらまず減らさなきゃならん。自分の手を下すのが面倒だったんだ」

 それで、自然に減っていく仕組みを作ったらしい。
 創作意欲旺盛なルーファウスならではの発想だ。

 同じく創作意欲はある和磨にも自分で減らすのは躊躇する気持ちはわかるので、ふぅん、と答えるしかなかった。

 そのことよりも、夢の中から今まで何度も耳にする言葉に、和磨の意識が取られる。

「あのさ」

「あぁ、何だ?」

「天と地の理って、何?」

 理というからには世界そのものの決まりごとなのだろうが、この世界の創造主である魔王すら縛る理とは何なのか。

 問われて、この世界では当然のことだっただけに逆に不思議そうな表情になったルーファウスだったが、そもそも世界の概念が違う場所から来た存在なのだと思い出した。

「この世界には、根底に二つの理がある。
 天と地の力量は同一であること。
 それと、地は天を忌み、天は地を憎むこと。
 二つの世界は二律背反で、どちらかに傾けば共倒れする。
 基本的に何者かに縛られることを嫌う魔属性でも自己防衛本能はあるからな。この世の常識として成り立っている」

「なんだか……。誰かの箱庭みたいだね」

 ぼんやりと思ったことを口に出せば、その感想が随分と的を射ていることに気がついた。
 毎日変化のない天体の運行、果てのある世界、生殖しない生き物、二人の相反する創造主、そして根底に存在する理。
 自然発生的に出来上がった世界ならば不思議すぎる内容だ。

「なかなか面白い見解だな」

 和磨の感想に興味を持ったらしい。
 自然発生的に生まれたならあるはずの混沌や矛盾が存在しないことを例に挙げて説明されれば、ルーファウスも納得したようで、ふんふんと頷いている。

「なるほど。つまり、誰か上位の存在の意思が働いているというわけだ」

「ん〜。
 っていうか、最初に造るだけ造って、放っておいたらどうなるのか観察している感じ?
 普段の生活で他人の手が介在してきたら、さすがにルーファウスに気付かれるでしょ」

「確かに、怪訝には思うだろうな」

 大体、そもそも二つの世界を別管理しているのにその実力は均衡するというなら、二つの世界をどうやってここまで成長させたというのか。
 最初に平等に造り上げた存在がないなら、天の創造主とルーファウスが互いに示し合わせるしかない。
 性質上話など合いそうにない双方が同数の最上位や上位の存在を創り出すなど、無茶な話だ。





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