15
夕飯には、出会った最上位魔族の全員が顔を揃えた。
魔族も高位な存在になると物理的な食事を取る必要はなく、ルーファウスのように生気を喰らう程度で事が足りる。
従って、食卓に集まった面々の目当ては食事ではなく、和磨の話し相手であることは疑いようがなかった。
ルーファウスは、どいつもこいつも暇人ばかり、と悪態を吐いていたものだが。
夕飯のメニューはほとんどブランチだった朝食と少し趣が異なり、ピリ辛の中華風だった。
料理の性質上大人数向きではあったが、その料理のジャンルのギャップには驚かされる。
その和磨の味覚には合う味付けに舌鼓を打ちつつ首を傾げていると、食事が済んで解散した後にルーファウスが裏話を教えてくれた。
「そもそもこの世界は食文化があまり発達していないのだ。
アモンはいろいろと食材を発酵させては新しい調味料を考案していてな。
俺たちのような魔族も、食わなくても生きていけるが、とはいえ、物理的に食事を摂ることでも動力を得る事は可能だから、あれの実験台にされる。
失敗は少ないから否やはないけどな」
「じゃあ、あの味付けはオリジナルなんだ!?」
さすがに驚いた。和磨の素直な驚きの表情に、ルーファウスはくっくっと楽しそうに笑っている。
「興味が湧いたか?」
「うん」
問いかけられて素直に頷く。
趣味とは言わないが、仕事柄食事には気を遣っていたこともあり、自分で料理をすることが多かったため料理はそれなりにできる。
創作料理の難しさはそのため良く知っていたのだ。
「気が向いたら調理場にも足を運ぶと良い。アモンが喜ぶ」
他人に興味を示したら嫉妬でもしそうだったルーファウスだが、存外快く許可を与えた。
誰彼となく接触することや和磨に下心のある相手と共に行動することを、ルーファウスは全力で拒んでいるように見えていたのだが。
「良いの?」
「アモンが相手な分には問題ない。同じ理由でカイムもだ。
あれらは夫婦みたいなもんだからな、変に勘繰る必要がないのさ」
「あぁ、やっぱりそうなんだ。妙に仲良しだなぁと思ってたんだ」
へぇ、と理解を示して笑う和磨に、ルーファウスはその笑顔に和んで和磨を抱き寄せる。
「さて、和磨の空腹が満たされたなら、今度は俺の番だな」
はっきりとそれが食事であることを告げられて、和磨は途端に真っ赤になって俯いた。
もちろん、ルーファウスの餌であるからこそこうして甘やかされているのは理解しているし、拒否するつもりはすでにない。
だが、何と言葉を尽くそうとも、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
「他の方法では喰えないの?」
「できないこともないが、これが一番カズマに負担のかからない方法だぞ。
生気を外に発散するのは強い外部刺激が与えられた時だ。
万人を大泣きさせる方法など知らんし、笑うにしても時間数は高が知れている。痛いのは嫌だろう?
ならば、この方法が最も効率が良く負担も少ない上に、量も多い」
こうも整然と並べ立てられると反論の余地も見つからず、和磨は溜息をついて諦めた。
「大人しく協力させていただきます」
「あぁ、それが良い」
くくっと楽しそうに笑い、しなだれかかってきた和磨を片手で軽々と抱き上げて、ルーファウスは浴室へ向かう。
諦めついでに脱力していた和磨は、小柄とはいえそれなりに大人な男の大きさはある自分を平然と抱き上げた彼に、抵抗することの無駄さ加減を思い知らされ大人しくその肩にしがみついた。
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