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 カイムが持って来てくれた衣装は、ひらひらとした天使のような服から軍服のようにかっちりしたものまで多岐に渡っていた。
 どれも見たことがあるようなデザインなので、この世界のデザインセンスは和磨の知っているものとそんなにかけ離れてはいないと知れる。

 出会った魔族たちの衣装も、Tシャツに襟のない上着を着てストレッチパンツを穿いていたり、襟の詰まった中国風の上下だったりと様々だったが、大した違和感はなかった。
 ちなみに前者は魔王という肩書きを持つルーファウスの衣装だ。
 肩書きには実にそぐわないラフさ加減である。

 ともかく着替えなければならないのだが、これだけ選択肢が幅広いとかえって迷ってしまう。
 とりあえずはこの日の予定に合わせて、ラフスタイルのルーファウスとドレス姿のアスタロトに挟まれて悪目立ちしないよう、裾の長い淡色のチュニックと黒のパンツをあわせて、上からチュニックと同系色である濃い深緑色のストールを羽織った。

 選ばなかった服を丁寧に畳んで腕に抱え寝室を出ると、そんなに長い時間はかけなかったはずだが、すでにルーファウスがそこにいて人待ち顔を向けてきた。

 ルーファウスが反応する前にカイムがそそくさとやって来て和磨の腕から服の塊を受け取りつつ、その着合せ方を検分する。

「なるほどそう合わせるのもありだな。随分着合せが上手いなぁ。俺も随分長く研究しているが、新発想だ」

「……服を着るのが仕事みたいなもんだったから、そのせいで鍛えられたのかも知れないですけれど。
 ストールはともかくこの着方は俺のいた世界の女性に丁度流行していたファッションですよ」

「仕事? まだ子供ではないか」

 なるほどと感心するカイムの背後で、同じく近寄ってきていたルーファウスが問い質す。
 その子供を合意の上とはいえ犯したルーファウスに言えた義理ではないはずだが、そこは遠く棚の上だ。

 少し咎めるような口調だったのに気付いて、和磨は苦笑を返すのだが。

「十七歳を子供というか大人というかは判断の分かれるところだけど。
 演芸の世界では子供も立派な職業人だよ」

「演芸……役者か?」

「グラビアモデル、って言ってもわからないか」

 何て説明すると伝わるのか、と首を傾げる和磨に。
 グラビアはともかくモデルの意味はわかったルーファウスが感心したようにその全身を眺めやった。

「男性モデルとしては少し身体が貧弱ではないか」

「中性的な男の方が人気があったんだよ」

 それはまた珍しい世界だな、と感想を述べられる。たしかにと和磨も頷いた。

 それにしても背中の中ほどまで伸びた髪が鬱陶しく、和磨はそれを首の後ろで纏めるとカイムを見やる。

「何か髪を纏める紐はありませんか?」

「それを何故カイムに聞く。
 俺がやってやろう、その手を放せ」

 服を用意してくれた人だから、という理由でカイムに尋ねただけなのだが、どうやら嫉妬したらしい。
 ルーファウスが手を放してさらりと肩に落ちたさらさらの黒髪を手に取り、手早く結い纏めてくれた。
 纏められた髪の長さと同じくらいの長さに残ったリボンは深い緑色でストールと同じ色をしていて、髪に絡められて背中に落ち着いた。

 そのリボンをどこから取り出したのかは不明なのだが。

「そら、できた。でかけるぞ」

 ついでにように背を押されて、和磨は頷いて歩き出す。
 この世界に来て今まで室内ですべての事が事足りていたおかげで、初めての外出だ。
 ここまでの出来事では和磨にとって違和感があまりないものだったため、ファンタジーの世界を存分に味わえると思えば胸も高鳴ろうものだ。

 ルーファウスが和磨の背後を守り、アスタロトが先導する隊列で部屋を出て行く三人を、カイムとアモンは仲良く同じ動作で手を振って見送っていた。





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