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 そもそも、和磨のいた世界とは構造ごと異なるこの世界は、三つの階層から成っていた。
 上から天上世界、地上世界、地底世界と呼ばれる。

 一番上の天上世界は、地上世界の上空、雲の上の位置に存在する異次元であり、天使が住んでいる世界だ。
 天上世界の天使は生まれながらに三つのレベルに分かれており、一番上が三対六翼の純白の翼を持つ最上位で六人しかいない。
 その下が二対四翼の上位天使で二百から三百の人数がいる。
 彼ら上位天使たちが、その下の位である二翼の天使たちを束ねている。

 最上位天使たちは、その限られた人数からそれぞれの特性を生かす役職に就いている。
 最上位の中でも一番の実力を持つ大天使ミカエルは、すべての天使たちの父である創造主に代わって天上世界すべてを管理統率する役目を担う。
 次点のリュシフェルは戦天使と呼ばれ、定期的に行われる地底世界の魔物討伐の際の陣頭指揮を取る。
 次はガブリエルで、天使や地上世界の人間たちに創造主の言葉を伝える告知の任を持つ。
 ラファエルは守護天使で、下位の天使たちや地上の人間たちを慈愛の目で見守っている。
 ウリエルはラファエルとは反対に罪を犯した天使や人間を罰する立場にあり、最後のザドキエルは記録官として天上世界に起こるすべての物事を記録している。

 彼らのさらに上位にいるのが、天上世界を象徴する唯一絶対の神にあたる創造主だ。
 彼はその存在が天上世界そのものと言って過言ではなく、天上世界に住まう生き物のすべてを創造し続けている。

 反対に、地上世界の足元、地底の奥深い位置に存在する異次元にあるのがこの地底世界だ。
 場所こそ天上と地底で異なるものの根本的な仕組みはほぼ同じで、創造主に変わる立場として魔王があり、最上位魔族、上位魔族、魔物の三レベルに分かれた住人たちがそれぞれの立場に見合ったテリトリーで好き勝手に生きていた。
 上位魔族は二百から三百人と数もほぼ同数で、魔王城に仕えていたり自分で館を持っていたりしている。
 最上位魔族も天上世界と同数の六人で、彼らだけはその特性に合った役職に就いていた。

 ここで紹介された五人に、別の場所で自分の城を持って暮らす将軍と呼ばれる猛き武将バエルを含めた六人が、魔王の次に力を持つ最上位魔族である。
 実力順に、将軍バエル、宰相ベルゼブブ、賢者アスタロト、門番アモン、同じく門番カイム、薬師ベリアルと並ぶ。
 アスタロトがベリアルに対し最上位魔族最弱と評したのは、単に六人の中でそういう順番だからというだけであってベリアルが特に弱いわけではなく、上位魔族たちの格上に立っていることには変わりない。

 天上世界が太陽が常に煌々と輝く雲の上のような真っ白な世界であるのと反対に、地底世界では不毛な荒野が大半を占め、地底らしく太陽が出ない分を擬似太陽が補っている。
 おかげで、昼間でも夜明け時のような赤紫色の空なのだ。

 そんな天上世界と地底世界に挟まれた地上世界も、和磨が知る世界とは様相が異なっている。
 まず、宇宙という概念はなく、地表は平坦で周囲を海に囲まれ、世界の果てでは海はそのまま滝となって虚空へと流れ落ちていく。
 夜空に星はあるが常に同じ場所で瞬いており夜中移動することもなく、太陽と月は同じスピードで追いかけっこをしているため、夜空に浮かぶ月は常に満月だ。

 地上世界は現在八つの国に分かれており、今は戦争もなく人々は穏やかに生活している。
 夜になると地底世界とを繋ぐ門が開け放たれるため下位の魔物たちが餌を求めて地上に出るが、日の光に弱い彼らは朝には地底世界に逃げ帰ってしまうため家に閉じこもっていれば危険はない。

 基本的に特別な力を持たない地上世界に住む人間たちだが、何事にも例外はある。
 中には魔物の力の源となる魔力や天使の力の源となる聖力を自らの身体の奥深くから引き出して自在に操る術を持った人間がいて、彼らは異能力使いとして人間たちから特別視されている。
 天使と魔物の中間である人間は生まれながらに両方の力を持ち合わせていて、普通の人間ならば両方の力が上手く均衡して相殺されてしまうところだが、どちらかの力を育てて自ら使えるまでに並みならぬ努力を重ねたのが異能力使いなのだから、その人物は尊敬されてしかるべきだろう。

 そんな異能力使いの一人に、魔力に秀でるあまりこの地底世界でも奥深い位置にある魔王城に出入りし、この世界の書物をすべて集めたと言っても過言ではない膨大な蔵書を誇るその書庫に入り浸っている人間がいる。
 書庫の管理人に近い立場であるアスタロトにも気に入られている彼は、現在は地上世界で弟子を育てているため時折顔を見せるだけになっていた。





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