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雅と友也は、共同でデザイン事務所を起こし、一緒に働いている。ただ、怪我がある分と実家の剣道場の手伝いで、友也はあまり無理をしない。その分、仕事が忙しくなってきた最近では、雅の負担が大きくなっていた。それはそれで、雅としては、嬉しい悲鳴ではあるらしい。まだ二人で何とかこなせているので、従業員を増やす予定はないが、そろそろ手を広げるか、と考えつつあるところではあった。
デザイン事務所を構えたのが、今から三年ほど前だ。それ以前は、友也は高校時代から続けているイラストレーターの仕事をして、雅は別の事務所で働いていた。事務所を構える予定は、後で聞いた話では、大学時代からすでにあったらしい。雅の将来の予定としては、高校時代には弁護士になりたいと言っていたように記憶していた哲夫は、あまりの変化に驚いたものだ。
しかも、それで成功してしまうから、すごい奴らだ、と哲夫は思う。
デザイナーは、基本的に技術力より才能がモノをいう仕事だ。これをモノにしてしまうということは、つまりは、それなりの才能があるということで。それも、二人揃ってそれが可能なところがまた、羨ましい限りだ。
とはいえ、その若さで成功を収めただけあって、周囲からは結構騒がれているらしい。誹謗中傷もあれば、素直な賛辞の声もあって、ま、妬まれるってことはそれだけ才能があるってことさ、などと雅などはうそぶいて見せたりしていた。
最近仕事が増えてきたのは、どうやら、昨年受賞したデザインコンテストの評価によるものであるらしい。おかげで徹夜が増えちゃって、と友也が助手席で恋人を心配そうに見やる。
「俺はそれでも、昔から仕事で徹夜することはあったからすっかり慣れてるけど、なんか、心配だよ。道場の手伝いやめさせてもらうから、俺にも仕事振って?」
「大丈夫だってば。それに、ちゃんと寝てるだろ?」
「エッチしたときだけ、ほんの2、3時間?」
言葉自体は恥ずかしがっても良さそうなものなのだが、友也の声は咎めるように鋭く、雅は肩をすくめる。
「もうちょっと寝てるよ」
「そうかなぁ?」
すでに実家を出て、そうは言ってもすぐそばのマンションに、二人で暮らしている。寝るのもいつも一緒のはずだ。ということは、友也が知らないということは、少なくともまともな寝方ではない。
話を聞いていて、宏春はこれ見よがしに大きなため息をついた。
「雅。睡眠不足は万病の元だぞ」
言われた途端、雅は、う、と唸った。何しろ本職の医者の忠告だ。これには口答えできないらしい。さらに、宏春が言い募る。
「友也の心配を無視してまで、無理して身体壊しても、俺は診てやらないからね」
「そんな殺生な」
「じゃあ、節制しろよ。今は良くても、後でガタガタッと付けが回ってくるぞ。もう若くないんだから」
最後の一言は禁句だろう。そう友也に突っ込まれて、宏春はさすがに苦笑した。皆同じ年齢なのだ。お前には言われたくないぞ、とでも言うべき言動である。
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