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紹介されたジュエリーデザイナーは、女性だった。それも、おそらくすでに四十代も半ばから後半くらいの年代である。少し意外だったらしく、宏春と哲夫は顔を見合わせた。
「やっと来たわね」
「約束の時間よりは早いですよ、孝子さん」
このために、約束を取り付けておいてくれたらしい。この友人の根回しには頭が下がる。
それにしても、その女性と雅は、実に仲が良さそうに話す。そして、それに対して、友也も別に嫌な顔を一つもしないのが不思議だったが。
「二人とも、その後の調子はどう? ずれてきたりしない?」
そう問いかけながら、彼女は座っていた椅子から立ち上がり、雅と友也の方へ歩み寄っていく。自分が作った商品の売った後のケアもちゃんとするらしい。二人ともこくりと頷くのに、嬉しそうに笑った。
「良かった。それで? そちらが、今回のご依頼?」
問いかけて、新顔の二人に顔を向ける。えぇ、と頷き、雅は二人を近くに呼び寄せた。
「友人の高井と下山田です」
「当ジュエリーショップオーナーの古式孝子です。よろしく。マリッジリングで良いのかしら?」
まるで当然のことのようにそう問われて、思わず宏春と哲夫は顔を見合わせた。そんな反応があまりに素直で、孝子がくすくすと楽しそうに笑っている。
「雅ちゃんとトモちゃんも、そうだったものねぇ。この子達に、リング作っちゃいなさい、って勧めたの、私なんですよ。ほら、この子達ってこんな外見してて、しかも結婚適齢期でしょ。周りがうるさくて困ってるって言うものだから」
リングをしていれば、さすがに諦めるだろう、ということだった。確かに、その通りで、それが目的なのだが。雅と友也も同じ理由で苦労していたのだとわかった。まったく、四人揃って似たもの同士だ。
それにしても、こんなにもあっさりと、男同士の関係を受け入れられるとは。この女性、恐るべし。
それに、雅と友也を『ちゃん』付けで呼べる人も、実は初めてだ。いくら歳が離れているとはいえ、少し驚いてしまう。それぞれの両親でさえ、そんな風に呼ぶ姿は見たことがない。
「雅ちゃんとトモちゃんは綺麗どころって感じだけど、こちらのお二人はまた、男前だわねぇ。ほれぼれしちゃう」
「ちょっとちょっと、孝子さん」
本当にうっとりと目を潤ませている彼女に、思わず雅が突っ込みを入れる。その傍らでは、友也がくすくすとしきりに笑っていて、どうやら彼女の人となりが友也には好意的に映っているらしいことが伺えた。
一方で、哲夫は、相手が女性であるにもかかわらず、全く気にしていない自分に驚いてしまう。女性恐怖症が、彼女の前ではなりを潜めているのだ。こんなにもはっきりと、女性的な言い回しであるにもかかわらず。宏春も、そんな哲夫に気づいていて、びっくりしていた。
「あら、やだ。ごめんなさいね。思わず自分の世界に入っちゃった。さてと、早速はじめましょうか。指のサイズは自分で知ってる?」
わけないか、と、尋ねた直後に自分の中で納得し、彼女は仕事の準備を始める。雅に座るように勧められて、宏春と哲夫は孝子と向かい合わせに座った。
「孝子さんには、事情を説明してあるから。心配しないで任せて大丈夫」
そのように、二人にひそひそと話をして、それから雅は顔を上げた。
「孝子さん。何時間くらいかかります?」
「そうねぇ。スムーズに済んで三時間くらいかしら?」
「そしたら、その頃また電話してみますね。後、よろしくお願いします」
どうやら、そのように話はまとまっていたらしい。ぺこりと頭を下げて雅と友也は店を出て行き、彼女は行ってらっしゃいと手を振って見送った。ということは、待っている間にデートして来よう、ということらしい。
確かに、何もすることのない二人には、三時間という時間はもったいない。
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