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 夢中で絵を描きつづけて、俺が3枚、友也が5枚、描ききった頃。日は西の水平線上まで傾き、海を赤く照らしていた。ほぼ半日、ここで座っていたことになる。
 尻に根っこが生えてしまったように、起き上がるのに苦労しながら、立ち上がった。

「帰ろうか」

「うん」

 俺が差し出した手を取って立ち上がり、頷く。俺が持ってきた荷物を片付けている間、先に片付けてしまった友也が、ぼんやりと西の空を見つめていた。

「どうした?」

「ん? 太陽が綺麗だなぁって思って」

「青い春ってか?」

「丁度適齢でしょ?」

 からかった俺にあっさり突っ込んで、それから友也はくすくすと楽しそうに笑った。先に、上ってきた崖を慎重に下りていく。俺も後からそれを追いかけた。




 帰り道。日も暮れてしまったので西でも東でもお楽しみは終わってしまっている。が、丁度海水浴帰りの渋滞にはまってしまった。まさに、しまった、というところだ。時刻はすでに19時を回っている。

「帰り、夜中だねぇ」

「そうだな」

 ポリポリ、と音がするのは、来る途中で買ってきたスナック菓子を噛む音だ。免許を取って半年。まだ、これだけ長い渋滞は初めての経験で、思わずため息が漏れる。どうでもいいが、ずっとブレーキを踏みっぱなしの右足が疲れてしまう。

「うちに連絡しとこうよ。きっと心配してる」

 確かに。ここからでも、携帯電話なら電波も届くだろう。とりあえず、観光地だ。

 頼りない電波1本表示にため息をつき、自宅に電話をかける。応対に出たのは父だった。今まだ下田市内だと言うと、父は意外と地理に詳しいので、大体どのあたりかを判断したらしく、苦笑を返してきた。

『渋滞にはまっているんだろう? 諦めて、どこかに泊まって明日帰ってきなさい。疲れて事故られるよりずっと良い。金はあるか?』

「うん。じゃあ、泊まって帰る」

 答えてちらっと友也を見る。泊まって、との言葉に、友也は嬉しがってよいやら悲しんでよいやら恥ずかしがったら良いのやら、複雑な表情を浮かべた。
 それから、俺が電話を切るのを待たずに、自分も自宅に電話をする。出たのは珍しく、御祖父さんだったらしい。闊達なその声は、電話からちょっと離れている俺にも聞こえてくるほど大きく、よく通る。

『温泉にでも浸かってゆっくりしといで。お前、働きすぎだぞ』

 あぁ、やっぱり。俺は夏休みに入ってから、ほとんど行動を別にしているから、普段の友也が何をしているのか知らなかったが、思ったとおり、仕事詰の毎日だったようだ。一応、身体障害者なんだから、もうちょっと自分の健康に注意してもらわないと困っちゃうぞ。

 電話を終えた頃、丁度、昼に通り過ぎた、河津方面との分岐点に到着した。この信号から、少しスムーズに流れているが。

「この先、どうする?」

「とりあえず、海岸沿いかな。通りがずっと温泉場だから」

 了解。地理に詳しい人には従うのが正解だ。友也の判断に従って、海側の道を走り始めた。





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