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 またもや車に乗り込み、ひたすら南下する。次に寄り道したのは、旧天城トンネル、というところだ。
 友也に言われるままに、路地に入っていったのだが、すぐに砂利道に出てしまって、一瞬困った俺に、友也は、行けるから大丈夫だ、と太鼓判を押した。
 しばらく、小石を跳ね上げないようにゆっくり走っていくと、広場に出る。そこに、すでに何台かの車が止まっていた。みんな、あの砂利道を走ってきたのだろう。
 うちの車は車高の高いツーリングワゴンだからたいしたこともなかったが、中にはBMWのセダン、などという高級車もいて、さすがに驚いた。

 そこにあったのは、石積みのトンネルだった。所々に電気もついているが、とにかく真っ暗で、少し中に入っただけでも自分の足元が見えなくなる。
 案内の看板を見て、ほう、と唸った。ここは、天城越えの中でも特に難所といわれた場所で、このトンネルが出来たおかげで、交通の便が格段に良くなったのだそうだ。

 ここでも、近くにいたおじさんにカメラマンをお願いした。とにかく、観光地ではみんな優しい。まったく赤の他人なのに、お互いに相手に親切にする。
 失敗した、とか言って、3枚も撮ってくれたそのおじさんは、丁度帰るところだったらしい。トンネルを歩いて向こう側に行ってみるといいよ、とアドバイスをくれ、奥さんを乗せて走り去っていった。

 トンネルの中は、本当に真っ暗だった。ぎゅっと握り合ったお互いの手が、心のよりどころになるようだ。まるで肝試しだが、そんなドキドキ感が、なんだか嬉しかった。一緒にいるのが、本当に愛している相手だからだろうけれどね。

 途中で、何度もトンネルを走っていく車とすれ違った。こんなところで正面衝突したらどうにもならないだろうに、そこはやはり、観光地ならではの譲り合いの精神のおかげらしい。問題は、懐中電灯もなしに真っ暗なトンネルを歩く自分たちの身の安全だったりするのだが。

 新道に戻り、再び道を南下していく。途中で、現在の新天城トンネルを通った。旧トンネルと比べると、比べ物にならないほど大きなトンネルで、明るいのだが、旧トンネルの方が情緒感は勝ちだ。現在も旧トンネルが活躍していたら、危なくて仕方がないだろうが。

 次に友也が勧めてくれたのが、河津七滝という滝の名所だった。
 なんと、滝が7つある。1本の渓流に滝が7つ。歩いて往復1時間ほどの散歩コースだ。
 下から、大滝、出合滝、かに滝、初景滝、蛇滝、えび滝、釜滝というのだが、散歩並みの歩き方で片道30分なのだから、いずれも落差はそれほどない。ただし、それぞれがなかなか面白い形をしていた。特に、かに、蛇、えびは、なるほど、と納得させられるネーミングである。

 滝見学散歩から帰ってきて、まだ昼には早い11時だったが、昼食を取る事にした。この先ずっと海岸通で、下手をすると全線渋滞だ、という友也の経験則と、この近くにわさびそばのおいしい店がある、という情報と、朝早く出てきたおかげで、最後の食事から6時間以上経っている、という事実が入り混じった結論である。
 さすがわさびの名産地。生のわさびを自分ですりおろして食べるそばは、本当に格別だった。店の人に初めて教わったのだが、わさびをすりおろしたら、汁に溶かすのではなく、そばにたっぷり乗せて、一緒に食べるのが通の食べ方なのだそうだ。実際そうしてみたら、新鮮なおかげでまったく辛くないわさびの味が、より引き立った。これは、病み付きになりそうだ。

 ようやく海岸に出たのが、丁度12時ごろだった。平日だというのに、すでに車がいっぱいで、少し早い昼食が大当たりだったのを実感する。流れてはいるので、イライラすることもないが、かなりびっくりだった。
 一体どこからこんなにたくさんの車が集まってくるのだろう。何度も強調するが、盆休みも過ぎた平日なのである。一般的に、学生以外は皆、仕事があるのではないのだろうか。

 トロトロと、車の列にはまって進んでいく。それが、白浜海岸を抜けたところで、急に走り出したのには驚いた。そこが、問題だったらしい。
 特にイベントもないので、海の家と海岸の往復する人間たちを優先するがための渋滞であったらしい。地下道か歩道橋でも作ったら、渋滞が解消するのだろうになぁ。





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