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 俺たち四人が建物から出てきたのを見て、警官隊が突入していった。宏春が犯人たちのいる場所と人数を担当責任者らしい人に告げて戻ってくる。俺の木刀は哲夫が持っていた。突入した警官隊も、まさか犯人たちをぼろぼろにしてしまったのが、守られるように出てきた俺だとは思わないだろう。

 警察と一緒に来たらしい。雅の両親が駆け足で近づいてきた。母親が雅を俺から引き離そうとして失敗する。被害者の雅は、助かってからはじめて、俺の顔を見つめて言った。

「ごめん。俺、役に立てなくて」

「……あの、雅? 謝るのは俺の方だよ。ごめんね、巻き込んじゃって」

「何言ってんだよ。これはあり得た事態なんだから、俺自身の注意不足。友也のせいじゃない」

 ごめんね、と言って雅が俺を抱き締める。俺は素直にその胸に身体を預けようとして……。

「いっ。痛い痛いっ。雅、痛いってっ!!」

 叫んで暴れて振り払う。雅も慌てて飛びのいた。それから、心配そうに俺の顔を覗き込む。俺はといえば、あまりの痛さに涙を流してうずくまっていた。

「大丈夫?」

 声も出なくて、首を振る。ひりひりしている。触られた時はずきずきと、肩に心臓が移動したかのように痛かった。右肩だ。黒いブレザーをやっとの思いで脱いだら、右にいた哲夫が、うわ、と痛そうな声を上げた。

「病院に行こう、友也。すごいよ、これは」

「ひゃあ、バックリいっちゃってる。シャツ真っ赤だぞ」

 冷静に言ったのが宏春で、痛そうに状況を教えてくれたのが哲夫だ。ほれ、病院行くぞ、と宏春に左の肩を触られて、それでも傷に響いて右腕を抱えたまま固まってしまった。
 もしかしなくても、今までブレザーがあったおかげで傷口がゆったりと広がれなくて血が押さえられていたらしい。父が慌てて車から走ってくる。手にはさらしを持っているあたり、さすが道場経営者。肩を脱臼した人の応急処置と同じ形で、傷口をしっかり塞いで、さらしでぎゅっと縛ってくれた。
 宏春と哲夫が警察のパトカーまで走って救急車を頼んでくれる。宏春、あれはきっと自分の身体のこと、考えてない。

 俺はというと、今更ながらに傷が痛んで、脂汗まで流していた。雅が丹念にそれを拭いてくれる。桂両親はどうしたものかとおろおろするばかりだ。父はさらしの結び目を固く固定しながら、怒るように言った。

「お前、こんな怪我で木刀振ってたのか」

「いや、気がつかなかったし。夢中だっ……」

 たから。途中で声が出なくなった。たぶん、緊張がとけたせいなのだ。それと、雅が無傷でここにいてくれるおかげ。安心したら、自分の怪我に気づいた。それだけ余裕ができた証拠だ。

「……よかった…。誰も怪我、しなくて……」

「お前がしてるっ。まったく、そんなに無茶するんじゃないよ、もう」

 そんな無茶するだけの価値、俺にはないよ、と。雅はそう呟いて涙を流した。力をなくしてぺちゃっと尻をついて座っている俺の頭を抱いて。

 パトカーの方から、宏春と哲夫と刑事らしい人が近づいてくるのを見て、そこで俺は意識を失った。





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