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「と、友也あ!!」

「えええーっ!?」

「何だってえっ!?」

 以上、俺が寿士さんにレイプされたと知ったときの宏春、哲夫、父の反応である。こんなに驚かないようにとできるだけあっさりと言ったのに、それでもやっぱり驚かれてしまった。のは、おそらく俺が寿士さんに惚れてつきまとっていたのだと思っていたからなのだろう。

 道案内の宏春を助手席に乗せて、元高平病院に向かう途中、俺は夢のおかげで思い出した集団レイプ事件のことを話し始めたところだった。

「さすがに当時中二じゃあね、両親に嫌われるって、物凄い脅し文句なんだよ。だから、レイプされたことも、それなのに感じちゃったことも、親にばらされたくなくて、寿士さんが好きなふりしてばらすタイミングずらして、つきまとってた。そのうち、恐怖心だけ残して事件のことはすっかり記憶の中から消し去って、好きだからつきまとってるんだって思い込んで心守って。
 ふられたときのショックって、失恋のショックじゃなくて、自分の目の届かないところに行ってしまうっていう恐怖だったんだ。失恋のせいだって俺もずっと思ってたけどさ。
 恐かったんだよね。でも、何でそんなに恐いのかわからないから余計恐くて、物凄いショックで、失恋したようにも自分には見えたから、落ち込んじゃった。そういうからくりだったわけ」

「今はもう、なんともない?」

 ほらね、この人たちは、絶対この程度じゃ態度変えない。

「だって、宏春も哲夫も、この話聞いても全然態度変えてないじゃない。
 あれから半年、いろいろあってさ、わかったわけ。とりあえず、俺のまわりにいて俺が心許せるって思った相手の中に、この程度で態度変えるような薄情な人はいないって。
 その意味では、右手使えなくなったのって、意味あったんだよ。自信持てるようになったもの」

 これのおかげだよね、と俺は右手を見つめる。動かないけど、できることならこんな怪我したくなかったけど。転んでもただじゃ起きないのだ、俺は。ちゃんと、その分の収穫はしなきゃ、ね。

「だから、雅を助けて、あの人に復讐して、けりつけてくる。自分の過去は、自分で取り返す。俺にもプライドはあるからね。いつまでもあんな最低な男に踏みつけにされてられないでしょ。三年分の貸し、返してもらわなくちゃ」

 だから、右手分、お願い、と哲夫に頭を下げる。右手分、つまり、雅を守る分。理解してくれたらしく、任せろ、と哲夫は自分の胸を叩いた。

 やがて、目の前に古い鉄筋コンクリートの四階建ての建物が見えてきた。看板が出ていたところは何も書いていない。十年前に不祥事を起こして倒産した、ちょっと大きめの病院跡地だ。
 現在の高井医院と同じくらいの規模である。俺の心の傷の大元がある、その建物だ。夢に出てきた廃病院、これである。

「いつ見ても、不気味だあね」

 一番に降り立った宏春の台詞。片手には小さなスーツケースを持っている。

「そりゃそうだろう。元病院だもの。幽霊の溜り場」

 俺と反対側に降りた哲夫がそう答える。俺だけ制服のままで、トランクを開けて木刀を取り出した。待ってて、と父に告げる。父の助力を受ければ、それこそあっという間に片はつく。でも、これは俺の復讐戦だ。手出しされたくない。

「行こう」

「おうよ」

 俺が先に歩き出す。二人とも後について来た。ちょっと前の俺だったら、きっとここまで二人を連れてきたりはしなかっただろう。
 でも、今は、守るべき人数が増えるとしても、俺にはこの二人が必要なのだとわかる。そしてきっと、わからせてくれたのは雅なのだ。甘えていいんだよっていう、あの言葉のおかげ。
 こんなに心を支えてもらっている。だからせめて、その身体の安全だけでも、俺が守る。俺にはそれしかできないし、これが俺に許された恩返しの方法だから。





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