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 それぞれの部活動を終えて、放課後、俺たちは自然にメディア研究部に集まる。最終下校時刻ぎりぎりまで仕事が終わらず、とても忙しそうにしている部だからだ。
 哲夫は外の部だから校門の所で待っていてくれるが、俺と雅は自然にメディア研究部に足が向いた。適度に疲れた身体で、右手首の運動をしながらメディア研究部の部室にいくと、廊下まで林先輩の怒った声が聞こえてきた。

「この際だからはっきり言っておくぞ。俺たちは、学校内という閉じられた世界とはいえ、報道という責任ある仕事をしているんだ。新聞に限らず、すべての班についてそうだ。
 報道というものは、真実を伝えなければならないし、その伝える内容に責任を持たなければならないんだ。我々は言論の自由を行使している代わりに、自らの論に責任を負わされていることを忘れるな。責任も取れずに言論の自由などと、本末転倒もいいところだ。
 わかったな」

 どうやら、五月号の今月のカップルが完璧に誤報だったとわかったことによる説教だったらしい。
 部室の中を覗くと、そこには雅と御手洗先輩と水野と竹河先輩がいた。あれから一度戻ってきたのだが、また宏春が呼びにきて、着替えていってしまったのが、まだ残されていたらしい。はっきり、気の毒だ。
 水野もどうやらそういうことらしい。雅に小声で尋ねてわかった。どちらかの片思いでもなく、本当に火のないところに煙が立ったようだ。

「最初に言ってあると思うが、この今月のカップルコーナーはスクープされる相手を守るための俺たちの高校生としてできる最大限の自衛行為なんだということを忘れるな。芸能レポーターになりたい奴は必要ないから辞めちまえ。おもしろおかしく書きゃいいなんて思ってる奴も、もう来なくていい。俺たちのこの学校の生徒たちに対する役割は非常に大きいんだ。しっかり肝に銘じて、もう二度とこんな不祥事を起こすな。いいな!」

 では、解散。林先輩の最後の一言で、やっとこの部屋に張られていた緊張の糸がゆるんだ。林先輩と宏春が水野と竹河先輩に頭を下げる。部長と班長の責任は重大だ。

「でも、僕は竹河先輩と噂になれただけでも嬉しかったですけど」

 なんて言って、水野がちらりと色目を使って竹河先輩を見上げる。だが、竹河先輩は優しげに笑ってやんわりとかわしてしまった。やはり、その性格の露骨さが煙たかったか。ちょっとタカビーの入ったその性格は、『太陽の女神』から落選したことが正しかったことの証明のようで、絵に描いたようで笑える。
 ふられてしまった水野は、好戦的な目を雅に向けて、その部屋を出ていった。挨拶もせずに出ていったのを見送って、あららと呟いて御手洗先輩が笑う。

 本当にすみませんでした、と頭を下げた宏春に、竹河先輩は何故かにんまりと笑って、顔を寄せる。その姿勢でささやいた。

「来月号にお詫び文載せるんだろ? 俺から一つ、ネタ提供するよ。お詫びの代わりにでも使ってくれたらいい。というか、これ、スクープしてほしいんだ。うちの彼氏の名誉のために」

「ええっ!? 竹河って恋人いたの?」

 驚いて御手洗先輩が大きな声を上げる。それは、俺も初耳だった。そんな雰囲気、ないのに。

「ん? 竹河にそんなに仲のいい奴っていたっけ?」

 学校内の生き人物辞典といわれる林先輩が首を捻る。この人の目をかいくぐって恋愛するなんて、不可能に等しいと言われるくらい、彼の頭の中には人物相関図がしっかり入っていて、しかも最新情報が満載という人なのだ。その人がわからないということは、出来上がったのがつい最近か、本当に隠し上手なのか、どちらかだろう。

「いるだろ? 武道館に。俺と肩並べるいい男が」

 ……ああ、なるほど。そういうことだったのか。竹河先輩の恋人だからと可愛い人を想像してしまったからいけないのだ。なるほど、二人ともたしかに美人である。美丈夫というべきか。

「宮城先輩、ですか」

 その通り、と先輩が頷いた。恋の相手というよりは親友という感じなのだが、多分友情が発展してしまった恋愛なのだろう。こんな学校だと、友情から愛に変わってしまうタイプの恋人たちが異常に多くなる。ところが、そういう恋愛は学校を卒業して女の子のいる世界に戻れば友情に逆戻りするものなのである。人の心というのは結構勝手だ。

 その意味で言うと、宏春と哲夫の場合は、一生添い遂げても驚かないタイプだった。何しろ、付き合い始めたのが中二の時で、俺が知ったのが中三の春、夏休みにはいつのまにか肉体関係に発展していたという人たちだ。中学は共学だったから、手近で手っ取り早くというわけでもないので、ということは本気なのだ。まして二人とも別の意味で女の子にもてるタイプなので、選択の余地は充分あった上でのゴールインということで、なおのこと本気なわけだ。

「ほう。じゃあ、来月の一組目は決定だな。春は恋愛の季節だからなあ。例年三組は出るんだよな、六月号って」

「へぇ。そうなんですか」

「そうなんですかって、高井、お前な。お前らの時も六月だったろ?」

「いや、でも、俺の場合は、守ってくれる仕組みだって実感した上で、それならって自分で記事書きましたからね。仲自体はマンネリの心配をする程度になってましたよ」

 え? びっくりしたようで三人の先輩たちが宏春に注目する。雅も驚いていた。反応がおかしくて、俺は遠慮なく笑わせてもらった。そんなネタを自分で提供してしまう宏春の、どうやら確信犯らしい口調が笑えて。

「宏春、今年三年目だもんな」

「十月には四年目突入だな。まあ、まだしばらくは手放す気ないよ」

 からかってやる俺に平然と返してくる。その顔が大真面目で、俺はそれで本気なんだと再確認した。

 ヂャリヂャリと鍵束の音が近づいてきて、警備員さんが来たのがわかる。しゃべくっている間に片付け終えてみんな帰っていて、俺たちも急いで部室を出た。慌てないと、昇降口が閉められて、職員玄関まで回らなければならなくなるので。





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