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 よくよく考えると、女の子というのは恐い生きものである。こんなものを好き好んで読む人なんて特に。俺のお得意さんなわけで、下手なことは言えないけど。
 女の子に言わせると、男がレズものを欲しがるのと一緒、なのだそうだ。子供ができないから安全でしょ、というちょっとずれた意見を聞いたこともある。たしかに子供はできないだろうけどさ、病気はかかるらしいぞ。

「でも、友也の絵ってあんまり気持ち悪くないな」

「そりゃそうだよ。対象年令中高生なんだから」

 レディースマンガなんて見れたもんじゃないって、と哲夫は実感をこめてそう言った。哲夫には年の離れた姉が二人いて、彼女たちに無理矢理見せられたことがあるのだという。それ以来女性恐怖症になったとかならないとか。
 宏春にとってはありがたい話だろう。女に奪われる心配がない。

 そもそもこの二人が付き合い始めたきっかけが、宏春の『哲夫くんのファーストキス強奪事件』だったりする。
 もともと宏春の片思いだったらしい。強奪事件そのものは酒宴の席でのおふざけだったが、それがどうしてそうなったのか、一週間後にはくっついていた。さすがの俺もこれには驚いた。

「でもさ、それは絵だからその程度でいいけど、初めての人だとその文章きつくて読めないよ」

「そういう話って、ほとんどが馴れ初め物語だからさ。最後に絡みのシーンがあるにしてもたいていは処女くんなんだよね。初めての時はさ、愛があっても痛いよ。もう二度とさせてやらない、とか思っちゃうもん」

「……って、哲夫も読んでるわけ?」

「姉貴の、ね。自分では買わない。姉貴のとダブったらもったいないから」

 と言える程度に読んでいるらしい。もしかしたら、俺たちの中でも一番読んでるほうかもしれない。こんなもの読まない奴だと思ってたんだけどな。俺の反応がおもしろかったらしくて、宏春が実に楽しそうに笑った。

「いやいや。テツの知識は半端じゃないって。俺なんて、テツに主導権握られっぱなしで、取り返せやしない」

「うそばっかり。慣れたら早々に取り返したくせに」

「あー。あの、ええと。場所、考えない?」

「だいじょーぶ。他人様には分かりっこないから」

 雅の正しい突っ込みに宏春が平然と返す。東京という街は、他人の会話に耳を傾ける暇のある奴はいない街だ。雅はさっとまわりに視線を投げて、ほっと一息ついた。

 さて、この辺りで話題を変えよう。

「で? このあと、どうする?」

 このまま渋谷で遊ぶか、新宿あたりに出るか、池袋にできた屋内テーマパークでも見にいくか、それとも山手線半周して秋葉原にでも行くか。せっかく東京に出てきたのだ。その気になればいくらでも遊べる。金次第ではあるが。

「そうそう。品川にでかいゲーセンができたんだって。行くか?」

 と、格ゲーマニアの哲夫曰く。レーシング好きの宏春がへぇなんて気のない返事をしながら目を輝かせる。この二人に連れられて行ったおかげでユーフォーキャッチャーだけはうまくなった俺としてはどうでもいいのだが、それでも実は宏春や哲夫の背後であーだこーだ言って邪魔するのは好きなので、いいね、と頷いた。さて、雅はどうだろう、と見ると、こちらも乗り気の様子。

「雅って、ゲーセン行くほう?」

「運がいいと百円で三十分ねばる」

「ってことは格ゲーだな。よっしゃ、対戦相手ゲット」

 どうやら決まったらしい。そうと決まれば、と俺たちは席を立った。





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