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 晴れたっ。

 四月第四日曜日。天気は快晴。行楽日和りだ。ゴールデンウィーク直前の日曜日とあって、人が少ないのも運がいい。電車は座れたし、山手線も混んでない。さすがにハチ公前は人が多いけど、それでもいつもほどじゃない。日曜日で制服の高校生がいないのも、なんだか解放感があっていい。

 さすが日曜日で、映画館は満員御礼。立見席まで出ていた。予告と合わせて二時間十五分。映画館を出て時計を見たら、午後一時になっていた。道理で腹が減ったわけだ。

「腹減ったね」

「何食う?」

 うまいと有名な回転寿司とラーメン屋が近くにある。こないだ見つけたパスタ屋も結構うまかったし、そこに牛丼屋も見える。渋谷の町は文化の町。食べるものには困らない。

「手っ取りばやく、ラーメンにする?」

「並ばないとこがいいな」

 どこがいいかねえ、と手ごろな値段の店を探し歩く。食べるものには困らなくても、これだけ店があるとどこにしようか迷うのである。これはこれで困ったものだ。

 悩みながら歩くこと十分。結局いつものラーメン屋に辿り着いた。値段は手ごろだし、並ばないし、味もそんなに悪くない。なかなか穴場な場所だ。
 ここの餃子セットが俺の気に入りメニューである。チャーシューメンに餃子がついて九百円という値段と、チャーシューのボリュームと、餃子のむにむにした食感と、ぱりっとした焼き具合が何ともいえず絶妙。
 有名になるほどうまいとは言わないが、貧乏な若者たちには良心的な店だ。

 ようやく腰を落ち着けて、さっき見てきた映画の品評会が始まる。何といっても、俺も宏春も哲夫も、流行の映画は何だかんだとけちをつけるほうだ。宏春など、くだらないとわかっている分アニメ映画の方がいい、とまで言う。哲夫はB級映画のファンである。それが何故わざわざ金を払って見るのかというと、見ないで悪口を言うのは相手に失礼だから、だった。

「だいたい、いまどきCGだってわかるようなCG使うなよなぁ」

「アメリカ人って、なんでまた軍隊って奴が好きなんだろうねぇ」

「恐竜に勝てる軍隊なんて、あるわきゃねぇだろって。なあ」

「ゴジラだって、自衛隊はやられ役だもんな」

 雅もそうやってこき下ろしたのに、俺たちは仲間を得た気がして嬉しくなった。哲夫が意見があったのを祝して握手を求める。俺と宏春は互いの手を叩いた。

 ちょうどきたラーメンを食べ始めて、しばらくは静かになった俺たちだったが、やがて五分で食い終えた哲夫が搾菜をつまみながらまた言いだす。

「CGってさ、どこまでいくと思う?」

「どこまでって?」

 聞き返したのは雅で、俺は箸を休めて首を傾げる。隣の宏春も何を言いたいんだ?という目付きだ。

「ほら、最近3Dってどんどん進化してるけど、基本的にポリゴンじゃない。どこまで本物に近づけるか」

「一番の問題はコンピュータの性能だからね。何年でって区切らなければ、際限なく行くんじゃない?」

 というのが、雅の意見。一方宏春は。

「人間の、っていうか、生物の身体の動きって、一筋縄じゃいかないところがあるからねえ。ソフトの性能もどんどんあがっていくだろうし。まだまだしばらくは実験段階だろうよ」

 なるほど、二人とも未来の技術に期待してるのか。でも、その技術を使ってCGを作るのは人の手だってことを忘れちゃいけない。

「プロの目から見てどうよ、友也」

「俺はCGはプロじゃないよ。ただの漫画屋だもん。使わなくもないけどね」

 下書きをスキャナで読み取って、色付けはパソコンに任せる。だから、部屋が絵の具で汚れなくてすむわけだ。さすがに片手で絵の具で汚れた部屋を片付ける勇気はない。作業でも片手ではできないことはいっぱいあるし。

「俺が使ってるのはパソコンのソフトだから、専門家が使うものより性能が悪いのは仕方ないんだけど。現状を言うとね。線が書きにくい。マウス使うじゃない? 動かしにくいんだよね。手書きの味出すならスキャナ使うしかないもん。それに、色もないし」

「色? CGって、色がきれいってのが売りだろ?」

「原色ならね。ただ、俺は淡い色で描いてるから、結構微妙な色が出せないんだよ。ディスプレイもフルカラーじゃないし。どうしても出ないときはドット書きしてる」

「ドットって……いくつあるんだよ」

「さあねえ」

 二日三日徹夜しているのを不思議がっていた宏春と哲夫は、やっと俺の苦労を理解してくれたらしい。今頃遅いって。





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