第二章 心の傷 身体の傷 1




 ほけーっと、俺はそれを見上げていた。朝、八時十五分。始業時間まであと三十分もある。まだまだ校内は静かだ。

 俺も宏春も哲夫も、家から近いという理由でこの高校を選んでいた。一番遠い宏春でさえ、歩いて三十分でつく距離だ。頭がこの学校の学力についていけたから入学できたのだが、俺たちにとっては近ければ別にどこでもよく、大学入試に問題がなければさらにどうでも良かったので、この学校に三人も入学させて喜んでいる出身中学の生徒指導担当教官は、ここにこの高校があった幸運に感謝するべきだろう。

 で、俺は、道場の朝練の声から逃げるように、毎朝八時に学校に来ている。今日は先週の県一テストの成績優秀者の掲示が出ていたので、通りかかったついでにチェックしたところだった。そして、最初に戻る。

 ほけーっと突っ立っているのには理由がある。成績の順位など別にどうだっていいと思っていた俺だが、今回はさすがに驚くしかない。

 三年生は相変わらず御手洗先輩が一位独走。二位をその恋人の林先輩が追っている。これは毎回ほとんど変わらない。

 一年生は水野が一気に欄外に落ちていて、かわりに小松原という生徒が一位を取った。が、点差はやっぱり団子状態。

 問題は、二年生である。全部満点で五百点というテストで。一位、桂雅、五百点。同じく一位、高井宏春、五百点。三位、長峰友也、四百九十九点。四位、高場充、四百九十七点。五位、下山田哲夫、四百九十五点。

「おいおい……」

 他の奴ら、手を抜きすぎてるんじゃないだろうか。高場以外は予備校にも行ってないんだぞ。思わず呟いてしまう。俺たち四人で上位独占してしまったわけだった。同立五位が哲夫を入れて六人いたのは、さすがに頷ける結果だったが。

「すごいな、こりゃ。号外、書きがいありそうだ」

「ああ、宏春。おはよう」

 すぐ後から声が聞こえてきて、俺は振り返りもせずに挨拶してやる。この声は聞き慣れていて、間違えようがない。

「はよ。惜しかったなあ、友也。何を間違えた?」

「さあ。英単語か漢字の書き取りじゃない?他に配点が一点のとこなんてないし」

 ちなみにちなむと、高場も哲夫も、他の五位の連中も、大体どこを落としたか想像がつく。全教科合わせても一つか二つしか間違えていないからだ。となれば、ケアレスミスを誘うあたりか不得意教科であると想像するのは簡単だ。

「問題は、点数よりもこの面子だよな。この二十人は、誰がどこに行ってもおかしくない」

 確かに、全員が一問か多くて二問しか間違えていない。誰が次に一位になってもおかしくない顔触れということである。けど、全教科満点と一問ミスの差って、かなり大きい。

「いやあ、やっぱ今回の目玉は雅でしょ。転入早々一位だ。これからが楽しみだよ」

 楽しみなのは新聞班長としての野次馬根性の方で、一方ではこの目立ち方を心配している宏春だ。

「で、どうしたんだよ、今日は。早かったじゃないか」

 いつもは哲夫と一緒に、始業ベルぎりぎりに駆け込んでくるというのに、どういう風の吹き回しだ、とからかってやる。宏春はちょっと意地悪っぽく笑った。

「『太陽の女神』選挙戦ポスター貼るのにね、早めに来た。新聞班でもメディ研でも決まらなくてさ。手伝う?」

「暇だしね」

 答えて、俺は宏春の横に立って歩きだした。俺は雅がいいなぁと思いつつ。





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