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 ホームルームが終わると、宏春はメディア研究部に、哲夫はサッカー部にそれぞれ行ってしまった。俺は雅に付き合って学校探険に出る。

 この学校は、かなり無駄に広い。余計なところに道が作られていたり植込があったりしている。普通に生活している分には、敷地の半分は一度も足を踏み入れずに卒業していける。
 その半分とは、余計な道に、剣道部と空手部が使っている武道館、文化部が集まっている第三棟、弓道場、テニス部しか使っていないテニスコート四面、野球場まである。普通に使うのは、教室のある第二棟に、職員室などが集められている第一棟、通称事務棟、体育館に柔道場にプールにグラウンド。
 敷地内にある寮から第二棟まで歩いて三分かかるという広い学校なのだ。ちなみに、中庭は事務棟と第二棟の間にあった。

 その辺を説明しつつ、歩き回って三十分。

「へえ。初恋の子に会えるようにって願掛けてるんだ。長くのびたねえ」

「小学校にあがってからずっとだから、もうかれこれ十年……十一年目になるなあ」

 こうなると、今度は会うのが恐くなる、と雅は笑う。

「っても、もう会ったんだけどね。残念ながら、相手の方が俺のこと覚えてなくて」

「この学校にいるの?」

 そう、と雅が頷く。本当に初恋の相手が男だったんだ。話を合わせただけかと思ってたけど。

「忘れちゃってるんだもんなあ。こんなに珍しい名前なのに、俺」

 淋しいなあ、といいながら、これ見よがしに溜息をつく。でも、なんでだ?

「まだ思い出してくれないし」

「……って、俺のこと?」

「そ。友也くんのこと」

 ……へ?

 ええっ。

 ええええっっ!!

 うそ、まじで!?

「幼稚園の時の記憶、もうない?」

「小学校六年以前の記憶はすっからかん。全然ない」

 中一からはずっと宏春と哲夫が側にいたから、連想でなんとか思い出せるけど。それ以前は冗談抜きでまったくわからない。別に記憶喪失とかそう言うわけじゃないけど、多分、覚えている価値なしと見なしてしっかり忘れたのだろう。ちなみに、宏春と哲夫以外の中学の時の同級生の名前も覚えていない。エピソードはかろうじてある程度だ。

「本当に?」

「本当に。片思い十二年目。再会して惚れ直しちゃった」

「……ませたガキだったんだね」

「先にプロポーズしてくれたのは友也くんなんだけどなあ」

 まあ、レクリエーションの罰ゲームだったけど、と苦笑する。そんなことまで覚えている雅に頭が下がる思いだ。

「というわけで、お付き合いしてもらえませんか?」

 そういう話になったついで、という感じの話の流れだったので、ふざけているのかと雅を見たら、はっきりしっかり見つめ返されてしまった。どうやら本気らしい。でも……。

「ごめん。好きとか嫌いとか、そういうこと抜きで、まだ俺、誰ともお付き合いするつもりないから。ごめんなさい」

 ぺっと頭を下げる。まるでねるとんのノリだけど、これが俺の本心だった。疑うのなら宏春や哲夫に確認してみるといい。そうだろうなあ、と納得してくれるはずだ。最近は誰か特定の奴見繕ってくっついちゃえとか言っている二人だけど、それだって本気で俺のことを心配してくれているからだし。

 本気で断ったのでわかってもらえたらしく、雅は淋しそうにうつむいて、やがて気持ちを切り替えて頭をあげた。

「この学校ってさ、美術部ある?」

 あるよ。答えて、俺は先に歩きだす。ちょっとだけばつが悪かったので。





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