式神たちの言い分 1




 志之助には、とにかく式神が多い。それはおそらく志之助の人となりのなせる業なのだろうが、それにしても、常にいる式神だけで両手では数えられないというのは、歴史上から見ても、稀有なことなのだ。

 式神というものは、別に常にそばに置いておくべきものではないし、必要な時に必要な霊と契約すれば良いはずのものである。それを、大小さまざまとは言え、常に持っている陰陽師というのは極めて珍しく、きちんと本家に認められたわけでもない志之助がそのような持ち方をすることは、さらに珍しいことであり。

 そのような持ち方をされている式神たちが一体どう思っているのか、非常に気になるところではあった。




 そこは、住人たちから「精霊界」と呼ばれている世界。ここに、志之助と式神契約をしている高位神獣たちが住んでいる。

 神獣とは、神々の世界に生き、神々に直接仕えることを許されている獣たちのことで、高位に属するほど、自らのカが強くなっていくのだが、志之助と契約している神獣たちはそのなかでもかなりの実力者で、四大原素の力を持っていた。四大原素とは、地水火風の四つで、つまりはこの世界を形づくっている要素である。

 1人は、誰もが知っている神獣、龍である。名を蒼龍という。何故人間の所有物となることを良しとしたのか、志之助にもわからないのだが、これでも精霊界の管理人の1人と数えられている立場だ。

 2人は、まだ幼い類に入る年令で、ただし、そうは言ってもその能カはものすごく、格も立派なものであった。片方は、王族の守り神と言われる麒麟の少女、紅麟。もう片方も、やはり王家の守り神とも言われる鳥、鳳凰の少年、鳳佳。どちらも将来を期待されている立場だ。

 この3人には及ばないが、それでも比較さえしなければかなり力のある者で、蛟という者もいる。これは、どうやら志之助のそばがよほど気に入ったのか、ずっと志之助の懐中で呪符に身を宿して眠っていた。本来ならこれも精霊界の住人である。

 日本という国ではよく知られている神獣に、天狗という生きものもいる。鼻が高くて赤ら顔の天狗は、白色人種を妖怪化したものだが、いわゆる烏天狗は、神の御使いとして精霊界に実在していて、これも志之助の式神として契約している一派があった。精霊界一の暴れものと知られた、実は帝釈天に仕える天狗たちである。

 彼らは、あまりにも悪戯が過ぎて、反省するようにと人間界に放り出されていたところを、志之助に拾われたのだ。どうやら志之助に仕えている間に少しは反省したらしく、最近では、帝釈天に仕えていた時よりも主人の命を良く聞いていた。もしかしたら、志之助に頼りにされていることによって、自信を取り戻したのかもしれない。

 そんな彼らが、精霊界で全員揃うのは、おそらく初めてである。

 いつも頑張ってくれているお礼に、と、志之助が常に呪符として持っている蛟と天狗たちを開放したため、両者が久しぶりに精霊界に戻って来て、この集まりは実現していた。

 蛟にせよ天狗にせよ、この精霊界では異端の存在だ。その彼らが、この精霊界の中でも尊敬される立場にある、蒼龍や紅麟、鳳佳と一緒にいるという事実に、事情を知らない他の精霊たちは、奇異なものを見る目で彼らを見ている。

 彼らの中では志之助に仕えている期間が最も長い、天狗たちのリーダー、「一つ」が、この中で一番権カを持っている蒼龍に、話しかける。本来なら恐れ多くて声もかけられないはずの身分差だ。

「前々から聞きたかったのだがね、蒼龍殿」

 天狗たちは、人間界において言語を扱うことを許されていない。志之助ですら、声を聞いたことはない。これは、人間界に戻ったら志之助に教えてやろうと思いつつ、鳳佳がそれを隣で聞いている。

「何故たかが人間の志之助に仕える気になったのだ?」

「そなた、あの志之助をたかが人間と思うか?」

 それは、蒼龍の本音なのだろう。もちろん、仕えると決めた理由は、紅麟が真っ先になついたからで、それは志之助にも言っている事実なのだ。しかし、今までそれを続けているのはそれなりに理由があってしかるべきで、一つとしてはそこを問い正したいらしい。

「あれは、いずれかの仏の化身だと私は見ている。そなたたちはどうなのだ?」

 たち、と複数形を使ったのは、天狗たちが全部で58匹いるせいか、それとも蛟も含んでいるのか。

 そう問われて、天狗たちはそれぞれ顔を見合わせる。

「我らは、道を見失っていた時に助けてくれた恩人だからこそ、できることは協力するつもりでいるだけのこと。仏の化身だなどと考えたこともない」





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