参の11




 白い光と爆発の熱と風の収まったそこに、二人は心底疲れた顔をして座り込んでいた。

 蛟の長い身体が二人を包み込み、どうやら守ってくれていたらしい。止めきれなかった爆風によって、蛟の身体は鱗が何箇所か傷ついているものの、かすり傷程度で済んでいる。

 志之助と征士郎は、ようやく見えるようになった相手をそれぞれに確認し、無傷でいることにほっとして、笑いあった。

『志之助〜』

『二人とも、無事か?』

 とたとた、と身体の軽い人間の走る音を立てて、古代中国の王宮衣装を身に纏った少年と少女が走ってくる。その後ろを、これまた古代中国王宮のごとき衣装を着た青年がゆっくり追いかけてきた。

 蒼龍、鳳佳、紅麟の三神獣が、人間の姿で近づいてくるのを確認し、蛟はその身体を宙に浮かせた。そして、ふっと掻き消える。また、志之助の懐に仕舞われた呪符に戻ったらしい。

 抱きついてきた紅麟と近くまでやってきて心配そうな顔をする鳳佳に、志之助はにこりと笑って見せた。

「大丈夫だよ。傷一つない。みんなが守ってくれたお陰だよ。ありがとう」

『何を申しておる。そなたを守るがわらわたちの仕事じゃ』

『そうだよ、志之助。そんなボロボロな身体をして。そんなになる前に、ちゃんと俺たちを呼べって』

 いつの間にか、反発していたはずの鳳佳までが、そんな声をかけていた。この二人を、後からやってきた蒼龍が嬉しそうに見守り、それから志之助に頭を下げる。

『ご無事で何よりです。ですが、志之助。鳳佳が言う通り、そんな身体になってしまう前に私たちをお呼びください』

「うん。ごめん」

 自分の式神に叱られて、志之助は苦笑と共に謝った。安心したのか、紅麟が『本当に心配したのじゃ』と詰って、その胸に頬を押し付けた。

 一方、式神たちに囲まれている相棒から離れて、征士郎は近くまで来ながら離れた場所に立っている雷椿に近寄っていく。

 自分からやってきた征士郎に驚いた顔を見せ、雷椿は首を傾げた。その相手に、征士郎は手にした神剣を差し出す。

「ありがとう。助かった」

『……あぁ、それか。それは、お前が持っていろ。お前は、確かに人間だが、姉を奪っていった男とは違って甥を助けてくれそうだ。それを使って、あれを助けてやると良い』

「だが、神剣なのだろう?」

『ふん。構わん。どうせ人の身でそうそう長く生きるわけではなかろう? あれが死ぬか、お前がくたばるまで、持っておれ。いらなくなったなら、引き取りに行く』

 偉そうな態度で、しかし、少しは気持ちが軟化したらしい。志之助を甥と認め、狐族には大事なものであるはずのそれを、征士郎に押し返した。

「しのさんを、甥と認めるのか?」

『あぁ。いくら拗ねてみたところで、姉は戻ってこないし、あれは間違いなく俺の姉の子だからな。だが、まさかもう死んでいるとは思っていなかったんだ。もう少し時間をくれ。そのうち、会いに行く』

 征士郎を前にして、何とも素直に返事をし、雷椿はふっと苦笑を浮かべた。

『お前は変な男だ。お前ならあれを任せられる気がするし、こんなにも素直に気持ちが落ち着いた』

 これも人魚の血かな、と笑って、雷椿は後ろを向いた。

『じゃあな』

 一歩足を踏み出し、その姿を銀色の古九尾狐に変えて、尻尾で地を蹴る。離れていくその姿を、征士郎は苦笑と共に見送った。その横に、志之助がやってくる。

「仲良くなれると良いんだけどね、叔父上と」

「なれるだろうさ。あの人がもう少し落ち着いたらな」

 そうだね。そう頷いて、志之助は征士郎の肩に頭を預ける。そして、腕にしがみついた。

「帰ろう? 疲れちゃった」

「そうだな」

 志之助の肩を抱き寄せ、征士郎は頷くと、その額に口付けをした。その愛しい相棒の、強く弱い心と傷ついた身体を、慈しむように包み込んで。





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