大江戸妖怪屋本舗 はじまり




 時は寛政年間。簡単にいうと、江戸時代中期。

 将軍様は第十一代将軍徳川家斉様。松平定信が老中となり、後の世に寛政の改革といわれた一大改革を打ち出した頃。多分、十五代三百年間の歴史の中でも一番江戸時代らしい時代のお話である。

 その頃はまだ、昼と夜がはっきりとわかれ、月のない晩などは一寸先も見えないような有様だった。当然、夜も更けて町中寝静まってしまうと、妖怪たちの天下となる。酔っ払って提灯片手に道を歩いていたりすると、百鬼夜行に出会うこともしばしば。そんな妖怪たちの悪戯が過ぎると、怪事件、といわれるような事件が起こったりもした時代だった。

 そんなわけだから、妖怪退治もれっきとした商売になりうる。看板などを掲げなくとも、口コミで仕事は舞い込んでくるという寸法だった。何しろ、近所のおばさんにちょいと耳打ちすれば、妖怪退治なんておもしろい話を自分の胸のうちに止めておけるわけはなく、三日で江戸中に知れ渡るのだ。女たちの情報網は侮れない。

 別にこの二人、妖怪退治屋で生計を立てているわけではなかった。そんな気は最初からまったくなかったし、それどころか、できればかかわりあいになりたくないと思っていた。

 それでも、いったん事を起こしてしまうと、人の口に門は立てられず、済し崩しにそれが生活の糧にまでなってしまったりするのである。

 つまり、擬物が大半のこの業界で、嘘も方便もなく、二人は本物の妖怪退治屋だった。





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