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「久しぶりの日差しに粕壁宿の者どもも喜んでおるようだ。志之助の手柄だな、良くやった」

 今までの寒さから突然真夏の暑さに放り出されたおかげで体調を崩す住人が続出しているのだが、将軍の勅命を受けて復興作業に向かった者たちのおかげで粕壁宿も本来の宿場町としての機能を取り戻しつつある。

 騒動を起こした修験者は事が目に見えないものだけにおおっぴらに罪に問うことも憚られ、これまた将軍勅命で西国の先に離れた離島に一族郎党含めて島流しとなった。
 これで易々と将軍家を脅かすこともできなくなるだろう。

 まだまだ暑さの続く日々の中、今日も元気に征士郎は出稽古にでかけており、志之助はいつものように将軍家斉の茶飲み友達として登城していた。
 またもや呼び出された橘が二人の脇で団扇をゆっくりと振っていて、そよそよと吹く作られた風が汗を少し乾かしてくれる。

「しかし、知らなんだな。神はヒトに作られるものなのか」

「色々な生まれかたがございますよ。天照大御神をはじめとする神々はこの天地を創造された神々ですし、神話の時代にまで遡ったご先祖様であったり、妖異の神格化であったり。江戸の守り神となられた神田の明神様も大昔この土地を治めた実在される人間でございます」

「ふむ、我ら凡人には難しい話よ」

「そのために私どものような専門家がおりますよ」

 ふふ、と笑う志之助も、自称する専門家としては異端ではあるのだが。

「その通りよな。今後も我らを良く助けておくれ」

「畏まりましてございます」

 屋敷を囲む森から聞こえるジーワジーワという蝉の大合唱を背景に背負い、改めて頭を下げて見せる。

「いや、しかし、暑いな。冬が恋しい……」

「そうでございますねぇ」

 まだまだ立秋を越えたばかり。
 つるりとうなじを伝う汗を拭いながら、ため息をもらす二人だった。


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