はろうぃん



(2007年ハロウィン限定SS)



 最後のお客さんを店の外までお見送りして、僕はうんと背伸びをした。
 外はもう真っ暗。ちょっと前まではまだ少し明るかった気がするんだけれど。
 考えてみたらお彼岸も過ぎて、日が短くなってるんだよね。

 捲くっていた袖を下ろして、エプロンをはずすと、向こうから愛しい旦那様が歩いてくるのが見えた。

 その手に握られていたのは、どうやらちょうちんのようだ。ただし、とても小さい。
 それは、僕の両手にすっぽりと納まるサイズの、カボチャの形をしたおもちゃだった。中にLEDが仕込んであって、ちょうちんのように光っていたらしい。

「どしたの?それ」

 おかえり、という言葉もすっ飛ばして尋ねれば、彼は困ったように肩をすくめて見せた。

「無理やり持たされたよ。相変わらずおりんさんは強引」

「ってことは、土御門のお家からもらってきたわけ?」

「はい、そーです」

「おりんさん、物好き……」

「だよなぁ? 仮にも陰陽道の宗家のくせに」

 はい、とそれを持たされて、反射的に受け取った僕を、征士は店の中に促した。

 今日は彼と別行動だった。土御門に属する霊剣術師を集めての会合に強制参加させられて出かけていたのだ。
 その帰りで、これを押し付けられたらしい。

 確かにもうすぐハロウィンだけれど。土御門という日本古来の陰陽道の大家で、西洋のお祭りに便乗するというのは、どうも気が乗らない。
 別に、陰陽道は宗教ではないので、他宗教のお祭りだろうが気にすることはないのだけれど。
 純和風にハロウィンは似合わないだろうというだけで。

「ちなみに、聞いても良いかな?せいさん」

「あぁ。何だ?」

「ハロウィンって、結局のところ、何?」

「……さぁ。俺も興味なかったからなぁ」

 もちろん、アメリカさんで、子供たちが「Trick or treat」などと言いながら家々を回ってお菓子をもらうお祭り、というのは知っているけれど。
 そのお祭りの場合、大人はお菓子をあげる側で、決して羽目をはずして楽しむお祭りではないはずだ。

 ならばなぜ、みんな一様に仮装して、クリスマス並みのお祭り騒ぎをするのか。理解不能。

「まぁ、あれだ。仮装大会みたいなもんだろ」

「あぁ、なんだかわかりやすくなった」

 せいさんにあっさりと要約してもらって、僕はようやく納得した。
 いくつになっても、たまにはやりたいものだよね、コスプレって。

 僕の場合、たまにというか、しょっちゅう陰陽師の格好させられてるけど。
 白い狩衣を着て、まるで漫画に出てくる安倍晴明のようだ。
 まぁ、江戸の頃の記憶がある分、和装は楽だから良いんだけれど。前世で幼い頃なら、似たような格好をしていたし。

「何なら、店でもやってみるか? ハロウィン企画」

「企画?」

「そう。お化けの仮装をしてきたら、一割引。カボチャのランプとかいろいろ揃えてさ」

「……却下。仕事が入る気がする」

「そうか、残念」

 本気では残念がっていない様子で、彼は店の片づけを手伝ってくれた。そうして、早々に部屋に引き上げる。
 何でも、打ち合わせでちょっと重大な役目を引き受けさせられてきたようで、店では話せない内容だったから、僕も一緒にそそくさと店じまいして後に続いた。

 真っ暗に明かりの落とされた店の中で、カボチャのちょうちんが怪しく光っていた。





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