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 帰りの電車で。

 しのさんは何故だか始終嬉しそうにニコニコと笑っていて、それがなんだか不思議に思えて問いただす。と、何とも嬉しい返事があった。

「だって。生まれ変わってから初めてだもの。僕を『妻』だって言ってくれたの。なんだか嬉しくって」

 そうだっけ?

 大昔からそんな認識だったから、確かに改めて口に出したことはなかったかもしれないけど。

「口に出して言うまでも無いだろ?」

「でも。言って欲しかったの。肝心なことは口にしないところは、昔と変わらないね」

「悪かったな、朴念仁で」

 気付いてやれなくて悪かったよ。しのさんにはいつも幸せでいて欲しいから、細心の注意はしているつもりなんだけどな。根本的に鈍いんだ、俺は。

 と、そんな不貞腐れた俺にも、しのさんは嬉しそうに笑っていた。

「ま、そういうところに惚れたんだけどね」

「うわ。しのさんがそんなことを言うなんて。明日は雪か?」

「今晩から雪だよ」

 ほら、と指差した車窓に見えるのは、ちらちらと舞う白い影。

 昔に比べたら随分と雪の量は少なくなったし、色も濁っているけれど。それでも舞い散る雪はゆっくりと降り積もっていく。

 重ねていく月日を思わせるように、アスファルトに溶けながらもさらさらと、街を白く染め上げていく。その景色を、俺はこの恋人と見られることに、素直に感謝する。

 長年、恋焦がれた人だ。これからの長い人生は、今まで待たされた分の何倍も、共に生きていきたい。できることなら、周囲に祝福を受けながら。

「親父には、ゆっくり時間をかけてわかってもらおう」

「うん。そうだね」

 俺の決意表明に、しのさんはしっとりと微笑んで頷くのだった。





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