恋人へと続く道 1




 結局、毎日の雑事に流されながら、俺はいつの間にか、高校三年生になっていた。

 相変わらず、しのさんを探す手がかりも見つからず。考えてみれば、日本人の人口は一億人を軽く超えてるんだよな。そんな中から人を一人見つけ出すって、砂浜で小石を一つ探しているのと同じくらい、途方もない。

 俺の名前は、中村征士。幼稚園時代に前世の記憶を取り戻して以来、ずっと人を探している。かつての相棒で恋人で奥さんだった人を。

 もう、それこそ、東京の人ごみを歩くときは、常に神経をとがらせて。彼とすれ違ったら、すぐに捕まえられるように。

 そう、相手は同性なんだ。昔も男だったけど、今世も男だった。

 記憶を取り戻したのは、恋人とばったり会ったのがきっかけだった。イントネーションが関西の方の言葉だったから、もしかしたらまた京都に生まれたのかもしれない。俺も生まれは前世と同じ川崎だったし。

 あの時は、さすがに幼稚園じゃね、何もつながりを作れなくて。親のいる前で抱きしめるわけにもいかないしさ。名前を名乗りあって、別れたんだ。

 今は、後悔してる。せめて、住所くらいは聞いておくんだった。

 彼の名前は、土屋志之武というらしい。また、今世も「しのさん」だ、ってちょっと嬉しくなった。
 俺も、今世も「せいさん」だしね。あの甘い声で、舌っ足らずな口調で「せぇさん」なんて呼ばれたら、もう、その場で押し倒しちゃいそうなくらい、大好き。

 うー。欲求不満かなぁ、俺。脳内で、昔のしのさんに襲い掛かってる自分が見えるよ。我ながら、がっついてるよなぁ。

 えぇと、何だっけ?

 そうそう、だから、しのさんを探してるんだ、って話だよ。

 今、俺がいるのは、子供の頃から通ってる剣術道場だ。

 高校は夏休みでね。都大会も突破してインターハイの切符を手に入れた今は、ちょっとした中休み中で。

 高校で部活して、後輩の指導とかしながら時間潰して、解散になったから道場に来た。部活では、自分の練習はほとんどしない。っていうか、そんなものしなくても高校生くらい手玉に取れるし、精神統一も素振りも、道場で一人静かにやるのが性にあってるんだ。

 で、今は畳に座禅を組んで、精神統一中。

 統一、してないよな、これだけいろいろ考えてたら。ま、俺には考える時間は不可欠だし、ちょうど良いさ。

 この道場は、高隆館といって、三河島にある。自宅は、南千住。だから、見事に常磐線ユーザーだよ。学校は、家から自転車で十五分のところだし。

 そこそこ広い道場で、俺はここに通い始めて十年以上の古株だから、精神統一には道場主のご自宅の一角を使わせてもらっている。道場に一番近い和室で、すぐそこに渡り廊下もあるから、行き来しやすい、っていうわけ。

 しばらくして、道場からこちらへ近づいてくる足音が聞こえた。人の数は、二人。片方は道場主だ。そのくらいは、見なくてもわかる。

『中村ですか?』

 ん? 俺?

 歩きながらの会話に俺の名前が聞こえて、俺はそちらに意識を集中した。
 やってきた二人は、隣の間に入っていく。聞き耳を立てれば、声も聞こえる場所だ。道場の方は竹刀をぶつけ合う音と気合の声でうるさいけれど、少し離れている分、人の話し声くらいは聞き分けられる。

『霊剣術? あぁ、あれですか。いや、もちろん、中村の耳には入らないようにしますよ。私としても、あんな日の当たらない道を弟子に進ませるわけにはいかないですしね』

『きっと、今回のインターハイでは優勝されるでしょうから、そうすると、彼の元にツチミカドからスカウトが来るかもしれません。水際で、拒んでやって欲しいんです』

『なるほど、そうですね。それはもちろん、そうしますとも』

 霊剣術? 何か、聞いたことのない言葉に、俺は見事に引っかかっていた。それに、ツチミカドという言葉にも、なんとなく聞き覚えがあって。

 ん? ツチミカド? あ、土御門か。陰陽道の大家の。しのさんも、昔、そこで陰陽術を学んだと言っていたっけ。

 どうやら、霊剣術というヤツは、土御門に関係のあることであるらしい。しのさんも、たぶんまた、陰陽道に関わるところにいるはずだ。生まれ変わってもその力は衰えるわけがない、って彼の式神たちが太鼓判を押していたんだから、間違いない。

 となれば、その道に関わるところを目指すのが、たぶん、しのさんへの近道だと思う。それに、剣術ということは、俺にも無縁ではないし。

 師匠は、どうやらその霊剣術を知っているらしい。もしかしたら、師匠の息子で師範代の昌親さんも知っているかも。そう思ったら、居ても立ってもいられず、俺は部屋を出て、道場へ向かった。





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