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 土御門麟子が現れたのは、土屋家の屋敷上空に襲い掛かっていた菅原道真の怨霊が姿を消して、丁度二時間後のことであった。

 一行は全部で三人。麟子、松安、そして勝太郎である。
 本来、土屋家を勘当になった立場の勝太郎が、その門内に足を踏み入れられるわけはないのだが、麟子の付き添いとして特別に許しが出た。

 麟子を迎えたのは、雄一郎、紘之助、志之武の三人である。

 菅原道真の怨霊がこの屋敷を襲いに来た、との話を聞いて、麟子はくすくすと楽しそうに笑った。
 人の災難を笑ったわけではない。志之武の実力が、現在の当主に理解してもらえたことが、嬉しかったのだ。

 麟子が嬉しい反面、紘之助は実に不機嫌である。
 怨霊を退治できなかっただけではない。出来の悪い息子に負けたのだ。紘之助が嬉しいはずがなかった。
 今まで見下してきた分、認められない、という意識が強い。

 それに、追い討ちをかけるように、麟子が話を切り出す。

「ところで、御当主。例の件、具体的にお話させていただきたいのですが」

「えぇ。志之武を後継者に、とのことでしたな。私も同意見です。が、それでは息子は納得しますまい。のう、紘之助」

 紘之助とすれば、わかっているのなら聞くな、と言いたいところだが、自分が廃嫡になる計画が立っていることも寝耳に水で、しかも父親まで自分を疎ましく思っていたとは思っていなかった。
 さすがにショックで声が出ない。

「志之武さんは、よろしいですわよね?」

「異存ございません」

 答えて、志之武はぺこりと頭を下げた。
 その答えに、紘之助は我を忘れた。自分の腹の下でしか生きられない身の上のくせに生意気な、と顔に書いてある。
 そうさせたのは自分であり、逆らえないのは承知の上で組み敷いていたわけで、紘之助が言えた義理ではないのだが。
 逆上して、そこに勢い良く立ち上がる。

「冗談じゃない。横暴も良いところだ。納得できませんっ」

「知力、技術力、精神力、どれをとっても、息子さんの方が優っていらっしゃいますよ、紘之助殿。
 何でしたら、力比べでもしてみますか?
 それで、勝った方が次期の後継者。紘之助殿が勝てば今まで通りですし、志之武さんが勝てば私たちの要求が満たされるわけです。
 いかがです?」

 その麟子の提案に、一瞬考えた紘之助であったが、それから、承知した、と頷いた。
 力比べの方法を聞いて、家人に準備をさせるから、と早々に部屋を退出していく。おそらく、何かしら勝利への秘策を考えているところだろう。
 それは、素人でもわかる洞察結果なのだが、志之武も麟子も、平然としていた。
 それは、小細工など必要ない、という意思の現れであった。





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