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 志之武が連れ去られた。

 その一報を受け、真壁勝太郎は土御門家へ急行した。そちらへ呼び出されたのだ。

 屋敷内は、夜中であるというにもかかわらず、煌々と明かりが灯され、臨戦態勢が整えられていた。
 取り次ぎに出た女中頭のヨシは、息を切らせてやってきた勝太郎を、急いで謁見の間へ案内した。

 そこには、すでに麟子、松安、征士、それに見知らない男が揃っていて、勝太郎の到着を待っていたらしい。
 征士は、唇を真一文字に結び、怒りと悔しさを懸命に堪えているように見えた。おかげで、何をしていたんだ、と怒鳴りかけた勝太郎が、言葉を飲み込む。

 勝太郎が座ったのを見届けて、麟子が征士を見やる。

「まず、そちらの殿方を紹介してもらえるかしら、征士くん」

 それは、土御門の人間ではなかったらしい。
 それどころか、よく見ると人間ですらない。
 古風な中国王朝王族が着るような着物で、髪を結い上げ、冠をかぶっている。青い髪と群青の瞳が、人間ではないことを物語っている。
 どことなく、気品が感じられた。雰囲気は、ここに集まった男たちよりも、麟子に近い。

「しのさんの前世での式神で、精霊界管理人も勤める高位龍の、蒼龍といいます。
 高位神獣式神たちの代表として、しのさん奪還作戦に参加したいというので、連れてきました」

 この紹介に、驚くべきことが3点ある。
 まず、志之武の前世、志之助に、高位神獣の式神がいたという事実。
 その式神が、生まれ変わりである志之武を助けたいと考える、その行動。
 そして、征士がその彼らを連れてここまで来られるという、陰陽師としての非常識。
 まず、高位神獣の式神を持っていたという点については、おそらくそれが事実なのであろうから、認めるしかないだろう。
 だが、式神になるということは、自由を奪われるということと同義である。その状況を、自ら欲する生き物など、普通はいないはずだ。
 ましてや、精霊界を管理する立場ならばなおさら、式神になっているような暇はないはずなのに。
 さらに、前世で主人だった人間を助けるために、彼らを支配する力などまるでないただの霊剣術師である征士に、従っているのである。
 いくら顔見知りとはいえ、無茶な話のはずなのに。

 陰陽師の常識は知り尽くした、熟年陰陽師、霊剣術師の3人は、互いに顔を見合わせた。
 その彼らに、紹介を受けて蒼龍が頭を下げる。

『お初にお目にかかります。蒼龍と申します。我が主の危機を知り、駆けつけたものにございます。どうか、我が主奪還のため、我らの力、存分にお使いいただきますよう』

 それは、征士の言葉が嘘ではないことの証明で、挨拶以上の意味はない。
 征士に付き従っているということは、それなりに信用しているということなのだろう。

「でも、あなた方を使役するくらいの力を持っているのなら、自力で出てこられるのではなくて?」

『ええ。それができる状況であれば、我が主にかかれば造作もないことでしょう』

「技術的にできるのと、精神的にそこに踏み切れるかとは、物が違うんですよ、麟子様。
 多分、しのさんは自力では出てこないと思う。父親から土屋家継承権を奪って、後顧の憂いをなくすまでは」

 それは、志之武を知り尽くした、恋人と式神の言うことだから、説得力に溢れている。
 だが、叔父である勝太郎は、途端に表情を暗くした。

「あの子に、父親から土屋家継承権を奪うなんて、できるというのか?」

「いえ。多分、無理です。しのさんが志之助だったころなら、それこそ迷わなかったでしょうけれど。志之武は、優しすぎるから」

 そういえば、征士はずっと「しのさん」と呼んできたが、それはいったいどちらを指していたのか。
 志之武の性格を把握しているということは、志之助とのオーバーラップから脱したと考えてよいのだろうか。ためらいなく、二人の名前を使い分けた。
 彼にとってはどちらも「しのさん」だから、別に気にしていないのかもしれない。





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