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志之武と勝太郎が部屋を出て行った途端に、麟子と松安はそろって足を崩した。
別に、正座が辛いわけではない。ただ、この3人の間で真面目に正座している必要はない、それだけである。
「で、やはり本人なのか?」
そう尋ねたのは、松安だった。その問いに、征士だけでなく麟子も何故か頷く。
「あの子、相当力あるわよ。私だって、あそこまで完璧に力を押し隠すなんて芸当、出来ないもの。参っちゃったわね。本気で力比べしたら負けるわ。
あれ、前世でもそうだったの?」
「出会った当時、比叡山一の法力僧でした」
「密教僧かぁ。こりゃ、手強いわね」
駄目だわ、勝算無し。そう、本来土御門宗家のトップに座る人間にあるまじき台詞を吐き出し、一緒にため息もつく。
それから、急に真面目な顔をした。
「たぶん、貴方の前ででも、力を隠してくると思うの。今度の仕事は、霊剣術師だけでもこなせる仕事だから、慌てないで片付けて頂戴。
あの子の、あそこまでかたくなになった心を溶かしてあげるのが目的だから、それ以外の手段は問わないわ」
「じゃ、麟子様は信じてくださったと?」
少し意外そうに、征士はそう問い返す。それに、麟子はからからと笑った。
「いやぁね。おりん、でいいわよ。
あんな力見せられちゃあね、土御門宗家として、黙っていられないわ。あれだけの力、もったいないもの」
できれば、それを使わせてもらいたい。それがどうやら本心のようだった。
そして、前世のとおりであれば、志之武の性格を誰よりも理解している征士は、今の固く沈んだ心を溶かしだすことが出来れば、協力することに吝かではないだろうとも、想像がつけられる。そして、麟子と松安、自分と志之武は、けっこう良い関係が築けるだろう。
そう、判断できるのだ。
「これは、征士君。貴方の手腕にかかってるわよ」
「承知いたしました」
答えて、深々と頭を下げる。
その征士を、麟子は満足げに微笑んで見つめ、それから師匠に当たる自分の恋人を見やるのだった。
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