東海道奇譚 序
男がいた。くたびれた袴ばきに刀を帯びた、ざんばら髪の男だった。いかにも浪人風の男だった。
男には連れがいた。こちらもまた男だった。長い髪をうなじあたりで一つにまとめた、歌舞伎ならば女形も張れそうな美顔の男だった。腰に差すものもなく、着流しを少し短めにあげていた。
年の頃、片方は三十いくかいかないか、片方は十八、九ほどであろう。
この中途半端に年が離れているらしい二人は、一路江戸を目指し歩いていた。延々とつづく砂浜の道を。海の見える道を。松林が並ぶその道を。富士山が見える、その道を。人はその道を東海道と呼ぶ。
この二人が道中巻き込まれる怪奇極まる事件のいくつかを少しなりとも物語ろう。この物語を、東海道奇譚と名付けて。
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