2 R18
今更言うまでもないが、人の身体の随所に点在する急所は、そのまま性感帯でもある。こめかみ、耳の裏、喉、乳首、みぞおち。唇と舌で優しく撫で上げていけば、志之助の身体はしなやかに身悶えた。唇を出るのは甘い吐息。
右足を持ち上げて、足の指を舐められる。その指の股が弱いのは、つい最近の征士郎のいたずらでわかったこと。すでに帯は解かれてくつろげられた前身ごろの間から顔を出す志之助の雄が歓喜に震える。
志之助の反応を確かめるようにちらりと見やった征士郎は、しっとりと濡れて艶を帯びたそれに、にやりと笑った。
「しのさんは相変わらず敏感だ」
「……やなの?」
からかう口調に拗ねて見せ、つんと唇を尖らせる。その仕草がかわいくて、征士郎はぎゅうっと抱きしめた。
「本当に浮気をしたら、お前を殺してやる」
「ふふ。それは、幸せな結末だね。年取ってみる影もなくなる前に、せいさんに殺してもらおうかな?」
「バカ。白髪のじいさんになるまで、俺に面倒見させろよ」
せいさん以外には感じないから、と耳元で囁くのは、過去の実績が物語る事実で、志之助から征士郎への愛の言葉に他ならない。その言葉に毎度いい気になって、志之助を狂わせそうなほどに翻弄するのも、いつものことだ。
くすくすと幸せそうに笑うから、征士郎はその笑い声ごと自らの唇に吸い取ってやった。
圧し掛かった征士郎のイチモツが、志之助のそれに具合良く擦れあい、双方に快感をもたらす。キスを深めれば、差し込まれた舌を吸い、志之助は自ら腰を動かして快感を追いかけた。
「ね、焦らさないで……」
わずかにかすれた声が、征士郎の耳元に吹きかけられる。くすぐったそうに肩をすくめ、征士郎は喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
指先で転がす胸の飾りが、志之助の快感の糸を弾く。女に比べれば相当低いその声は、しかし、征士郎にはこの世の何者にも替えがたい。その声だけで、すでに準備万端に張り詰めたそれが暴発してしまいそうなほどに。
そうやって翻弄されてしまう自分が少し悔しく、苦し紛れにその胸の飾りをカリっと噛めば、志之助の背が弓なりに反らされ、あられもない声が口をついた。
「あぁっ」
「気持ち良いのか?」
「ん、やぁ……っ! ダメ、せいさん。イっちゃいそう……」
「まだ何もしていないぞ?」
乳首を弄っているだけ。そして、互いのソレを絡み擦り付けているだけ。
もちろん、それだけのことが志之助には強すぎるほどの刺激になるのは重々承知した上で、からかっているだけなのだが。
「せ、さん……イジワル」
拗ねた口調で言われても、そもそもそれを自覚している征士郎にはまったく効かないわけで。くっくっと楽しそうに笑い、乳首を舌で転がしながら、擦り合わせているそこに手を伸ばした。
とろりと粘着質なその先走りを手のひらに受けて、自分と志之助のそれに、根元まで塗り広げる。少し強く揉みしだけば、それそのものも志之助の背と同じく弓なりにのけぞった。
確かに見た目こそ華奢だが、抱きしめればそれなりに筋肉質であることはわかるし、その持ち物は立派な男のものなのだ。だが、抱かれる快感を良く知っている志之助の身体は、唯一心を許した相手である征士郎に、身も心も翻弄されることを受け入れ、一切の迷いも無く身を預ける。むしろ、迷う余地など無いとでも言いたげに。
だから、すでに感じすぎていて辛そうなソレを通り過ぎて、さらに奥の蕾に指を伸ばしたとき、志之助は自ら足を広げて膝を立て、その行為を強請った。とろりと溶けている液を指に掬って差し込めば、ほとんど何の抵抗も無く誘い込まれた。指の根元まで、一気に入り込んでいく。
「ふぅん……」
「イイのか?」
「ん、ステキ。もっと、して?」
爪の先まで抜いて、指を一本増やす。身体がピクピクと痙攣するのが、征士郎には嬉しいらしく、目元を緩めた。
内股の、敏感な部分にキスを落とし、舐めあげる。一緒に、中にもぐりこませた指の先が、前立腺を刺激した。
「あぁ……ん……」
志之助の表情に苦痛は見えず、上げられる声は艶かしい。
とても、四捨五入をすると四十になってしまう男の、表情であるとは思えない。
「ん、あぁ……。ね、せぇさん……まだ……?」
「まだ、辛いと思うが?」
「平気だよ。……ね、欲しい」
「何が欲しい?」
「……せいさんの」
「の?」
「……イジワル」
毎度毎度同じようなおねだりとはぐらかしの応酬をして、征士郎はまた笑う。恥ずかしがる余裕がまだある志之助に、思わずイジワルを言ってしまう自分に、気付いていてもやめられない。なにしろ、その恥ずかしがる仕草が官能的に可愛いのだ。
いつもなら、もう少しはぐらかしてイジメるところなのだが。
今日は、征士郎もあまり余裕が無い。三本の指で解きほぐしたそこに、自分のモノを押し当てた。女より細いような腰を掴み、多少無理やりに先端を潜り込ませる。
わざときつく締められた入り口を通り抜けるその刺激が、征士郎の射精感を否が応にも煽り立てる。下腹に力をこめて堪えなければ、きっとそこで暴発していた。
「しのさん……」
少し咎める意味もこめて愛しい人を呼べば、欲しいものをもらった幸福感に酔っていた志之助は、はんなりと笑って返した。
それが、きっと征士郎を限界線から先へ突き出したはずだ。
身を乗り出すように体勢を改め、征士郎は明らかに自分本位に動き出す。根元まで突き刺し、突き上げる。
「はぁあぁん!!」
悲鳴にも似た、今夜一番の音量で喘ぐ声が、室内に響く。
それを聞いても、征士郎に立ち止まる気配はない。思うまま、腰をひいては突き上げる。根元が当たるたびに、肉のぶつかる音がして、志之助の荒い息に混じってなおさらに征士郎を煽り立てた。
「あ、あぁん、イイ、いいよ、イ……っ」
「あぁ、イイよ、しのさん。イきそうだ」
「んぅっ……あっ、あんっ……イイ……イきそぅ……」
もう、無茶苦茶に腰を動かす征士郎に、何の抵抗もせずに揺さぶられながら、志之助は恍惚とした表情で悲鳴を上げた。
「い、ぃあぁっ、イっちゃうぅ!」
「んっ、悪い、イくぞ、イく……くぅっ」
ビクンビクンと震える志之助を力いっぱい抱きしめて、その身体の奥の奥へ、自らの精を叩き込む。最後には、志之助の喉から悲鳴も上がらなかった。
結局、三回戦で撃沈した志之助は、柔らかい布団と暖かな恋人に包まって、幸せそうな寝息を立てている。
少し開けた窓の隙間から、冷たくさえ感じる月の光が、室内に差し込んだ。
今夜はどうやら満月らしい。
なるほど、あれだけ乱れた原因のひとつは、きっと月の魔力なのだろう。思えば、志之助があられもなく乱れる日は、たいてい窓の外に月が見える。
頬に流れる一筋の髪を払ってやって、征士郎は眠る志之助の傍らで、片膝を立てて壁に寄りかかり、月を見上げた。
思えば、彼の寝顔を見るようになって、すでに十年。せいぜい三十云年ほどしか生きていない征士郎にとっては、すでに三分の一の年月を、共に暮らしている計算になる。
今では、彼こそが自らの半身であると、自負すら持っている征士郎だったが、その反対を、どうやら自分はまだ疑っていたらしい。彼のほうこそ、何の疑いも無く、自分に全身を預けてくれているのに。
「まだまだだな、俺は」
障子の枠に頭をぶつけ、独り言を呟いて、征士郎は深くため息をついた。
何も知らぬげに、眠りをむさぼっている志之助の、規則正しい寝息が、征士郎の心を落ち着けさせていく。
そろそろ眠ろう。明日もまた、尊い未来へと続く、いつもの平凡な一日が始まる……。
おわり
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